国内投資の拡大を通じて日本企業の「稼ぐ力」を高め、賃上げを含む好循環を生み出すため、高付加価値化に向けた大胆な設備投資を後押しする制度として、令和8年度税制改正により「大胆な投資促進税制」(正式名称:特定生産性向上設備等投資促進税制)が創設されました。
令和8年7月31日の改正産業競争力強化法関係法令の施行に伴い、確認手続きの受付が開始されました。
税制創設の背景
従来、日本企業では、大規模な設備投資に伴う初期の資金負担や投資回収期間の長期化が、投資判断の障壁となっていました。
今回創設された特定生産性向上設備等投資促進税制の特徴は、一定規模以上の機械装置、工具、器具備品、ソフトウエアに加え、建物、建物附属設備、構築物も対象資産に含まれていることです。
税制上の措置として即時償却または税額控除が認められており、大規模かつ高付加価値の投資を支援する制度となっています。
また、対象となるのは青色申告書を提出する法人・個人であり、中小企業者等に限らず、大企業も利用可能です。
特定生産性向上設備等投資促進税制とは
対象となる特定生産性向上設備等の取得価額の合計は、35億円以上(中小企業者等は5億円以上)である必要があります。
そのため、新工場の建設や新規事業の立ち上げなどに伴う大型投資が対象となり得ます。
また、投資利益率の見込や、資金調達手段、意思決定の状況などを記載した投資計画について、事前に経済産業大臣の確認を受ける必要があります。
事後申請は認められないため、ご注意ください。
投資計画等と諸手続き
事前に確認を受ける投資計画には、導入する設備や投資額、資金調達手段などを記載します。
計画は、取締役会などの決議・決定に基づくものであることが要件です。
また、投資計画における年平均のROI(投資利益率)は、15%以上となることが見込まれる必要があります。
申請にあたっては、公認会計士または税理士による確認も必要です。
経済産業省への事前申請は、原則としてWebで受け付けています。
申請先は、本社所在地を管轄する地方経済産業局となり、申請前に経済産業局へ事前相談することが推奨されています。
申請から確認書の発行までは、休日や補正に要する期間を除き、概ね30日かかります。
事前相談などにかかる日数も考慮し、余裕をもって申請することが望ましいでしょう。
確認後の資産取得及び事後照合
本税制の適用を受けるには、令和11年3月31日までに経済産業大臣の確認を受け、その確認日から5年以内に設備を取得等し、国内の事業の用に供する必要があります。
投資計画に基づいて設備の取得等をし、事業の用に供した年度には、導入した特定生産性向上設備等が投資計画に従って導入されたものであることについて、経済産業大臣の証明(適合証明書)を受ける必要があります。
税務上の措置を受けるには、税務申告時に確認書と適合証明書を提出します。
即時償却か税額控除か
事業供用年度に、即時償却または取得価額の7%(建物・建物附属設備・構築物は4%)の税額控除を選択できます。
税額控除には、調整前法人税額の20%という上限があります。
どちらを選択するかは、投資計画の対象資産ごとに決めることができます。
即時償却は、将来の償却費を前倒しする効果、つまり課税を繰り延べる効果が中心です。
事業供用年度に多額の損金を計上できるため、当該年度の税負担を抑える効果が期待できます。
ただし、損金計上を前倒しするものであるため、償却期間全体で見た納税額は、原則として変わりません。
また、大規模な設備投資で即時償却を選択した場合、事業供用年度に大きな欠損が生じる可能性があります。
その場合は、大企業における欠損金の利用制限なども考慮する必要があります。
一方、税額控除には税額を恒久的に減らす効果がありますが、調整前法人税額の20%という上限があります。
そのため、大規模な設備投資で税額控除を選択すると、控除限度額に達する可能性があります。
(国際経済事情激変事業適応計画の認定を受けた場合、控除超過額は3年間繰り越し可能です)
また、赤字が続く場合や納税額が少ない場合には、税額控除を使い切れない可能性があります。
各年度の課税所得の見通しや資金繰りを踏まえ、資産ごとに有利な方法を選択することが大切です。
例えば、投資額の大きい建物には即時償却を選択して当期の税負担を抑え、建物に比べて償却年数が短い機械装置などには税額控除を選択する方法が考えられます。
会社の状況や資産の取得状況に応じて選択することで、税制上の効果をより適切に得られる可能性があります。
3つの留意点
本税制の利用にあたっては、事前申請が必須であることに加え、以下の3点にも留意が必要です。
他の設備投資税制と併用できない
確認を受けた法人は、投資計画の期間内の日を含む各事業年度において、地域未来投資促進税制、中小企業経営強化税制、カーボンニュートラル投資促進税制を利用できません。
この制限は設備単位ではなく、投資計画の期間を含む事業年度全体に及びます。
他の税制とどちらが有利か、事前に比較しておくことが重要です。
大企業には不適用措置がある
大企業は、当期の所得が前期を上回る事業年度において、継続雇用者の給与等支給額の増加要件と、一定の国内設備投資額要件のいずれかを満たさない場合、本税制を適用できません。
建物だけの投資計画は確認対象外
建物は対象資産に含まれますが、建物のみを取得等する投資計画は、経済産業大臣による確認の対象となりません。
まとめ

本制度を活用する際は、税額への影響だけでなく、利益水準や資金繰り、投資回収期間、金利なども踏まえた総合的な検討が必要です。
制度の内容を理解した上で、投資計画に適切に反映し、実効性の高い設備投資に繋げていくことが重要です。
アタックス税理士法人では、税務顧問をはじめ、事業承継、財産承継、自社株対策など、企業経営に関わる幅広いご相談を承っております。
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筆者紹介

- アタックス税理士法人 社員 公認会計士 税理士 伊藤 隼夫
- 情報サービス会社にて営業職、会計事務所勤務を経て、アタックス税理士法人へ入社。現在、中堅・中小企業から上場企業に至るまで、税務対応のみならず、事業承継、企業の成長支援等の課題や社長の悩みに積極的に携わっている。
