6月26日に公開したコラムでは「非上場株式、約60年ぶり大改正へ」というテーマで、非上場株式の評価方法が見直され、株価評価を実態に合わせて適正化するとの名目のもと、実質的な評価額の引き上げが検討されているという内容をお届けしました。
評価の公平性を担保し、実態に即した評価へ改正することはやむを得ない面があります。
しかし、非上場会社を所有・経営している経営者からすれば、上場会社の株式のように容易に換金できない株式の評価額を引き上げられ、その結果、多額の相続税が課されることに納得できない方も多いのではないでしょうか。
そのような意見に対し、国税当局は、非上場株式の承継においては、「事業承継税制」という別の制度で配慮するという姿勢を示しています。
そこで今回は、改めて事業承継税制について確認していきます。
現在の事業承継税制
ここからは事業承継税制についてご説明しますが、対象となる方が多いと思われる法人版に絞って解説します。
事業承継税制は2009年4月に施行された制度です。
その後、2018年の税制改正で特例措置が設けられ、現在では全ての株式が納税猶予の対象となったことから、実質的に贈与税・相続税の負担が生じない制度となっています。
また、後継者は最大3人まで対象となるほか、従業員を一定割合雇用する「雇用確保要件」も弾力化されるなど、以前と比べて非常に利用しやすい制度となっています。
さらに、後継者の役員就任要件など、特例措置の適用要件も、適用期限である2027年12月31日を前に順次緩和されています。
2027年9月30日までに特例承継計画を提出し、2027年12月31日までに株式を承継すれば適用を受けられるため、今からでも十分に間に合います。

事業承継税制のデメリット
事業承継税制は、現在の特例措置により非常に有利な制度となっています。
しかし、あくまでも相続税・贈与税の「納税猶予」であり、「免除」ではありません。
そのため、取消事由に該当した場合は、猶予されていた相続税・贈与税に加え、利子税も納付する必要があります。
取消事由の一つとして、後継者が納税猶予の対象となった株式を一部でも譲渡(売却)した場合が挙げられます。
つまり、事業承継を目的として取得した株式を、その後に譲渡して換金することは認められていません。
一方で、次の後継者へ事業承継税制を利用して相続・贈与することは認められています。
このほかにも取消事由はいくつかあるため、継続して要件を満たし続けられるかを十分に確認した上で、事業承継税制を活用するかどうか判断することが重要です。
特例措置の期間が終わった場合
現在の事業承継税制は特例措置の適用期間中であり、非常に有利な制度となっています。
しかし、この特例措置は2027年12月31日までと期限が設けられています。
国税としては、非上場株式の承継において事業承継税制の活用を促していることから、「特例措置の期間が延長されるのではないか」と期待されている方もいるかもしれません。
しかし、国は特例措置の適用期間を延長しない方針を明言しています。
これは、延長の可能性を残してしまうと、「まだ時間がある」と考え、事業承継を先送りするケースが増える恐れがあるためです。
国としては、特例措置の適用期間内に事業承継を進めてもらいたいという考えがあります。
特例措置の適用期間終了後は、従来の制度である一般措置が適用される見込みです。
一般措置では、納税猶予の対象となる株式数は最大で3分の2までとなるため、相続税・贈与税の全額について納税猶予を受けることはできず、一定の納税負担が生じます。
もともと一般措置では使い勝手が十分ではなく、事業承継が進みにくいという課題があったことから、現在の特例措置が創設されました。
そのため、一般措置へ移行するのであれば、制度自体がより利用しやすい内容へ見直されることが期待されます。
事業承継税制以外の対策

事業承継における株式承継は、経営者自身の相続対策という側面もあります。
相続対策として事業承継税制を活用することも一つの方法ですが、相続対策は大きく分けると次の3つの視点で検討することが重要です。
(1)遺産分割の検討
誰にどの財産を承継させるのか
(2)相続財産の圧縮
生前贈与などを活用し、相続税を軽減できるか
(3)納税資金対策
相続税を納付するための資金を確保できるか
今後の税制改正により、非上場株式の評価額が引き上げられ、相続税の負担が増える可能性があります。
しかし、例えば(2)では相続時精算課税制度の活用、(3)では相続により取得した株式を自己株式として譲渡し、納税資金を確保する際の特例など、検討できる対策はまだ数多くあります。
税制改正の動向を確認しながら、さまざまな特例制度を上手に活用し、自社に合った事業承継(株式承継)のプランを早めに検討することが重要です。
筆者紹介

- アタックス税理士法人 代表社員 税理士 稲木 武雄
- ベンチャー企業から上場会社まで幅広い会社の税務顧問業務を担当、また、組織再編成実行支援といった特殊税務や相続対策などの資産税についても幅広く対応、総合的な税務コンサルタントとして活躍するプロジェクトマネージャー。


