近年、国際税務に関する相談が増えています。
「国際税務」というと、大企業や海外進出をしている企業の話だと思われるかもしれません。
しかし、実際にはそうとは限りません。
例えば、
- 海外子会社を保有している
- 海外企業と取引をしている
- 社員を海外へ出向させている
- 海外から商品やサービスを調達している
このような企業も、国際税務を意識する必要があります。
経営者の方からは、
「うちは海外進出していないから、国際税務は関係ない」
という声を聞くことがあります。
ところが、実際に税務調査や税務相談の現場でお話を伺うと、
「知らないうちに、国際税務の論点に該当していた」
というケースは決して少なくありません。
さらに近年は、国外の税務当局との情報交換制度も整備され、海外取引に対する税務調査の精度も高まっています。
つまり、国際税務はもはや一部の大企業だけの問題ではなくなりつつあるのです。
そこで今回は、中堅中小企業が特に押さえておきたい「国際税務リスク10選」をご紹介します。
「うちには関係ない」と思われている方も、ぜひ一度チェックしてみてください。
①海外進出
海外進出をする際には、現地法人を設立するのか、支店とするのか、あるいは代理店を活用するのかによって税務上の取扱いが大きく変わります。
進出当初の判断が、その後の税負担や管理コストに大きな影響を与えることもありますので、税務面からも検討することが重要です。
②PE(恒久的施設)
海外で営業活動や契約締結活動などを行う場合、その国にPE(Permanent Establishment:恒久的施設)が認定される可能性があります。
PEが認定されると、現地で法人税申告・納税が必要となる場合があります。
海外に法人を設立していないからといって、必ずしも現地での課税関係が生じないとは限りません。
③移転価格
移転価格とは、海外子会社や関連会社との取引価格が適正かどうかを検証する制度です。
グループ内で利益を意図的に操作していないか、本来稼得するべき利益が移転していないか、という観点から確認されるため、税務調査でも重要な論点となります。
海外子会社との取引がある企業は、取引価格の設定根拠を説明できるようにしておくことが重要です。
④海外出向
海外出向者の給与を誰が負担するのか、また、出向契約をどのように定めているのかよって、税務上の取扱いは大きく異なります。
海外赴任者が増える中で、相談件数も増えている分野です。
特に、海外赴任者の生活に必要な費用を出向先が負担し、それ以外の費用を出向元が負担するといった処理を行う場合には、税務上の問題が生じる可能があります。
出向者に関する費用負担は、
「誰が、何のために負担するのか」を整理しておくことが
重要です。
⑤外国税額控除
海外企業からロイヤルティ、配当、技術指導料などを受け取る場合、海外で源泉徴収されることがあります。
こうした海外で納付した税金について、日本での二重課税を調整する制度が「外国税額控除」です。
しかし、計算ルールは複雑であり、控除漏れや計算誤りによって、本来受けられるメリットを十分に活用できていないケースも見受けられます。
⑥外国子会社配当
海外子会社から受け取る配当金については、一定の要件を満たせば、その95%が益金不算入となります。
一方で、持株割合や保有期間など、適用を受けるための要件があります。
海外子会社から配当を受け取る際には、これらの要件を事前に確認しておくことが大切です。
⑦CFC税制(外国子会社合算税制)
CFC税制は、海外子会社を利用した所得移転を防止するための制度です。
以前は「タックスヘイブン対策税制」と呼ばれていました。現在では、いわゆるタックスヘイブンに所在する企業だけでなく、一般的な海外子会社であっても適用対象となる可能性があります。
海外子会社がある企業は、自社がCFC税制の対象となっていないか、一度確認しておくことをおすすめします。
⑧源泉税
海外企業へのロイヤルティ、配当、技術指導料などの支払いでは、日本で源泉徴収が必要となる場合があります。
さらに、相手国との税務条約との関係もあるため、判断を誤ると企業側に追加の税負担が発生することがあります。
海外企業への支払いを行う際には、「単なる海外送金」と考えず、源泉税の取扱いを確認することが重要です。
⑨グローバル・ミニマム課税
グローバル・ミニマム課税は、OECDを中心に導入が進められている新たな国際課税制度です。
現状では大規模なグループ企業が主な対象となっていますが、取引先やグループ企業の対応を含め、今後の動向を理解しておく必要があります。
自社が直接の対象でなくても、取引先やグループ全体の税務対応に影響する可能性があります。
⑩税務調査
国際税務に関するさまざまな論点は、最終的に税務調査で確認されます。
その際に重要となるのが、契約書や計算根拠、社内での意思決定資料などが十分に整備されているかどうかです。
「なぜこの処理をしたのか」を説明できる資料を、日頃から整えておくことが重要です。
ここまで、「国際税務リスク10選」をご紹介してきました。
実際の相談事例を見ても、問題となるのは「制度を知らなかった」というケースだけではありません。
むしろ、「うちには関係ないと思っていた」というケースが大半です。
例えば、
- 海外子会社への出向者給与負担金の設定
- 海外企業へのシステム利用料の支払い
- 海外子会社からの配当受領
など、一見すると日常的な取引の中にも、国際税務上の論点が潜んでいます。
そして、国際税務は、問題が発生してから対応しようとすると、選択肢が限られてしまうことがあります。
だからこそ重要なのが、「問題が起きる前に確認しておくこと」です。
事前にリスクを把握し、契約書や社内ルールなどを整備しておけば、多くの問題は未然に防ぐことができます。
海外ビジネスが一般化した今、国際税務は一部のグローバル企業だけの課題ではありません。
「うちには関係ない」と思っている企業こそ、一度、自社の海外取引や海外との関わりを整理してみてはいかがでしょうか。
今回ご紹介した10項目のうち、「うちにも当てはまるかもしれない」と思うものがあれば、ぜひ一度確認してみてください。
その小さな確認が、将来の税務リスクを大きく軽減する第一歩になるはずです。
筆者紹介

- アタックス税理士法人 主任コンサルタント 角谷 伸司
- 主に中堅・上場企業の法人顧客を担当し、クライアントの会計・税務問題の解決に深く携わる。特に、税務調査の場面では、課題となる事案に関し見識を生かし、顧客の立場に寄り添った対応が高く評価される。 近年は、海外進出するクライアントの経営・税務の問題を解決すべく、移転価格税制、タックスヘイブン税制、PE課税、国外源泉所得、海外関連会社間取引などにおけるコンサルティングに従事する。
