海外M&Aは、国際的な事業展開を図る企業にとって欠かせない手段となっています。
特に、ASEAN5か国(タイ・ベトナム・マレーシア・シンガポール・インドネシア)においては「海外 × 海外」とともに「国内 × 海外」M&Aの実績も増加しています。
2025年10月に発足した新政権の方針もあり、円安・ドル高傾向はしばらく継続する見込みです。海外経営者にとって魅力的な日本企業を有利に売却できるチャンスといってよいでしょう。
今回は、海外M&Aにおける売り手側の課題や成功のポイントを解説します。海外M&Aの検討にぜひ役立ててください。
今、海外M&Aで日本企業が高く評価される理由
2025年11月現在、依然として円安・ドル高の傾向が続いています。しかし、今後はゆるやかに円高・ドル安に戻ってくるとの推測が市場の中では主流です。
日本の企業の技術力やブランド力は高く、海外企業から積極的なアプローチを受けられる可能性があります。「円安の今なら日本の企業を割安で買収できる」と考える海外の買い手は多く、事業を整理したい日本の経営者にとっても不採算事業を売却するための絶好のチャンスです。
事業整理のためだけでなく、海外M&Aを他事業の資金調達のために活用すれば企業として前向きな活動にもつなげられます。「日本企業」としてのブランド力を活かし、円安の今だからこそ叶う条件で売却を成功させましょう。
海外M&Aで売り手が抱える3つの壁
海外M&Aでは、国内M&Aと比べてさまざまな課題に直面します。言語や文化の壁はもちろん、税制面や交渉における難しさからも逃げられません。
これから紹介する3つの壁は、見落としやすく、専門性の高い課題ばかりです。海外子会社の売却を検討をするときに知っておくと、スムーズに検討・売却のプロセスを進められます。
海外子会社・海外事業の適正な「企業価値評価」
企業や事業の価値を「どう適正に評価するか」といった壁があります。
企業評価(バリュエーション)の方法には、DCF法や倍率法が一般的です。企業の持つ資産から負債やリスクを差し引かれる一方で、ブランド力や技術力を加味して最終的な売却価格が決まります。
しかし、海外M&Aでは現地との会計基準の違いや情報の非対称性、経済サイクルの非同期性などを考慮したバリュエーションが欠かせません。海外M&A特有のリスクを理解したうえで売却価格を交渉する必要があります。
国・地域によって異なる「税務・文化風潮」
国・地域によって異なる税務・文化風潮は、海外M&Aにおける大きな壁です。
日本において譲渡益は法人税の課税対象となります。日本と相手国との間で締結されている租税条約によって課税の取扱いが異なり、相手国へ税金を支払わなければならないケースもあります。
また、自社には法的な問題はないと信じていても、買い手のデューデリジェンスによって土壌汚染や賄賂などが発覚するリスクは否定できません。偶発債務が見つかると、想定よりも低い価格で交渉せざるを得ないでしょう。
さらに、文化風潮の異なる経営者に変わると、従業員が戸惑うかもしれません。特に中堅企業より小さい規模の企業においてはPMI支援も必要不可欠です。
オーナー経営者の個人資産の「国際相続」
会社の売却と同時に、オーナー個人の資産承継も考えなければなりません。海外に資産がある場合、日本にある資産とは異なる手続きで承継させる必要があります。
海外子会社を保有していた場合、国をまたぐ税務手続きや相続評価が複雑になりやすく、いわゆる「国際相続」対策が必要です。しかし、現地における相続の考え方や制度を深く理解していなければ準備できません。
スムーズな資産承継のためには、税務の専門家によるアドバイスを受けながら遺言書の作成や生前贈与の手続きを行なっておくとよいでしょう。
海外M&Aで売却するには国際税務の専門家が不可欠
海外子会社のバリュエーションを適切に行い、国際税務・法務の問題を乗り越えるには、専門的な知識が不可欠です。過去に国内M&Aの経験があったとしても、十分な知識があるとは限りません。
特に、買い手の国・地域によって気をつけるべき点は異なることに注意すべきです。買い手側によるデューデリジェンスの結果次第では、予想していなかった問題が浮上する可能性もあります。
海外M&Aを検討する際は初期段階から国際税務の専門家と連携し、円滑に進めましょう。
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編集者:アタックス税理士法人 国際部 編集チーム

