輸出免税の“落とし穴” 〜EXW取引と消費税の注意点〜 | アタックス税理士法人 国際部

輸出免税の“落とし穴” 〜EXW取引と消費税の注意点〜

2025年5月15日

消費税は、国内の消費に広く薄く負担を求める税金であり、もはや幼稚園児でも知っていると言っても過言ではない、私たちの生活に密着した税金です。国民のほぼ全員が日常的に負担しており、これほど広範囲に影響する税は他にないでしょう。

消費者にとっては、商品の価格に含まれているものという意識しかありませんが、事業者にとってはそう簡単ではありません。個人事業者や法人は、取り扱う取引が課税対象かどうか、課税であれば何%の税率が適用されるのかといった判定を、日常的に行わなければならないからです。

特に2023年(令和5年)10月から導入されたインボイス制度を受け、経理担当者は請求書の記載内容のチェックや、軽減税率の適用状況の確認など、より高度な判断と記録管理が求められています。中でも国際取引における消費税の扱いは、誤ると多額の追徴につながるリスクがあるため、十分な注意が必要です。

本コラムでは、その中でも「輸出免税」とくに「EXW取引(工場渡し)」に焦点を当て、実務上の注意点について解説します。

消費税の課税対象とは

日本の消費税は、「国内において」①資産の譲渡②資産の貸付け③役務の提供が行われた場合に課税されます。つまり、取引やサービスの提供が日本国内で完結していれば、原則として消費税は課税されるということです。

ただし、取引が国際的要素を含む場合には、「内外判定」と呼ばれる判定が必要になります。

この判定により、国内取引なのか国外取引なのかを判断し、次に「輸出免税」に該当するかどうかを判定する流れとなります。

内外判定とは

内外判定は、取引や役務提供が「国内において行われているか」を判断するために必要なプロセスです。

有形資産の譲渡(たとえば製品や部品の売買)の場合は、その資産の引渡場所が日本国内であれば、基本的に消費税の課税対象となります。無形資産や役務の提供の場合は、取引の内容や提供の場所、相手方の所在地などを総合的に判断するため、より複雑になります。

この内外判定を経て、国内での取引だが輸出を前提としたものについては「輸出免税」の可否を検討していくことになります。

輸出免税とは

消費税法における輸出免税とは、「国内からの輸出として行われる資産の譲渡または貸付け」に該当し、一定の要件を満たす場合に、消費税が0%として扱われる制度です。

貨物が税関を通じて実際に輸出された場合はもちろん、税関を通らないサービス提供や無形資産の譲渡でも、取引相手が「非居住者」である場合には輸出免税の適用があるケースがあります。

なお、海外で仕入れ、海外で販売をする「完全な国外取引」は、日本国内での消費活動とは見なされず、不課税(そもそも消費税がかからない)となります。

今回は特に有形資産の輸出免税についてその注意点を深掘りします。

実務で注意 輸出免税の“落とし穴”

EXW取引が要注意

国際取引では、「インコタームズ(貿易取引条件)」によって売主・買主の責任範囲が区別されます。よく使われるものとしては以下の3つがあります。

  • FOB(Free on Board=本船渡し):売主が、港で船に積み込むことで商品の引渡を行う形式
  • CIF(Cost, Insurance and Freight=運賃・保険料込み):FOBに運賃と保険料を加え、輸入港までの費用を売主が負担
  • EXW(Ex Works=工場渡し):売主の施設(工場・倉庫等)で買主の手配で商品を引き渡す。通関など輸出手続きは基本的に買主が行う

FOBやCIFでは、売主が輸出手続きを担うことが多いため、輸出免税の要件を満たしやすいのですが、EXW取引では注意が必要です。

    EXWでどこが問題になるか

    EXW取引では、商品の引渡しが「売主の工場や倉庫」で完了するため、「売主が輸出していない」と見なされる可能性があります。輸出免税の適用要件である「輸出として行われる資産の譲渡」には該当しないというリスクがあるのです。

    この場合、本来消費税が免除されるべき取引が、課税取引となり、納税義務が発生してしまいます。特に大口取引で見解の相違があった場合、税務調査で指摘されれば大きな金額の追徴課税につながります。

    輸出免税を受けるための対応策

    輸出免税を確実に適用するには、以下の条件を満たすことが必要です

    • 商品の引渡し後に、その貨物が輸出されることが明らかであること(日本国内で転売されないと確認できること)
    • 売主が輸出申告等の手続きを行っていること、またはこれに近い能動的な輸出行為を確認できること
    • 輸出の事実を立証するための「輸出証明書」「輸出許可通知書」などの書類を、売主が保存していること

    (参考:国税庁タックスアンサー 「No.6551輸出取引の免税」)

    これらが確認・証明できなければ、輸出免税とは認められず、通常の課税取引として扱われるリスクがあります。

    課税売上割合への影響も

    輸出免税は「課税売上」に含まれます。一方で「不課税取引」は含まれません。 輸出免税と不課税取引を誤って処理すると、課税売上割合の算出ミスにつながり、仕入税額控除の可否や割合に影響が及びます。その結果、思わぬ消費税の納付額増加につながることがあるのです。

    おわりに リスクを回避するために

    EXW取引を含む輸出取引に携わる企業では、消費税の取り扱いについて、「輸出免税」というキーワードを過信せず、その適用要件と証拠書類の管理について、慎重に確認することが大切です。

    特に税務調査の現場では、「書類で説明できるか」が最大のポイントとなります。判断に迷う点があれば、国際税務の経験豊富な専門家の助言を求めることが、リスク回避の第一歩です。

    「税務調査で指摘されて初めて気づいたのでは、もう手遅れ」です。
    ぜひ今のうちに、自社の輸出取引に潜む“課税漏れリスク”を見直してみてください。

    執筆者アタックス税理士法人 社員 国際部副長 永持 祐司
    税務顧問から個人資産家や法人オーナーの資産税業務を含めた財産コンサルティングに従事。組織再編を活用した事業承継、財産承継コンサルティングの業務を中心にオールラウンダーなプロジェクトマネージャーとして活躍中。国際税務では、クロスボーダー取引、東南アジアを中心とした税務対応や海外を活用したタックスプランニングなどの実績がある。現在、アタックス税理士法人国際部副部長として活動中。

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