今年も4月に『中小企業白書(2025年版)』が公表されました。
▼2025年版「中小企業白書」全文 | 中小企業庁
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2025/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
昨年のコラムでは、中小企業白書の表紙の絵をきっかけに「ファーストペンギン」のお話をさせていただきました。
ファーストペンギンとは、集団行動をするペンギンの群れの中で、天敵が潜んでいるかもしれない海に最初に飛び込む勇敢なペンギンを指します。
リスクを恐れず挑戦する、まさにベンチャー精神の象徴といわれています。
今年の表紙は「鯉」が描かれており、滝を登る鯉のように、中小企業も力強く成長してほしいという願いが込められた白書だと感じました。
為替・物価・金利の上昇、そして構造的な人手不足により、中小企業・小規模事業者を取り巻く経営環境は依然として厳しい状況にあります。
だからこそ、今年のキーワードは「経営力」です。この経営力を「経営」「人」「経営者」の3つの視点から分析しています。
白書では、さまざまなデータに基づく分析が行われていますが、特に印象的だったものをいくつかご紹介したいと思います。
経営の視点から
経営計画を策定している企業は、そうでない企業と比較して業績が良いというデータが示されています。
2018年および2023年の売上額・付加価値額の中央値を比較したところ、経営計画を策定している企業の方が20~30%ほど高い結果となりました。
白書では、「調査結果から一概にはいえないが、経営計画の策定は、業績の向上につながる可能性がある」とまとめられています。
(中小企業白書187スライド、Ⅱ-17ページ)
これまで、経験則として「経営計画は作成すべき」とお伝えしてきましたが、こうしてデータで裏づけられると、やはりそうだったかと改めて納得させられます。
人の視点から
業績の良い企業ほど、人材育成にも力を入れているようです。
先ほどと同様に、2018年と2023年の売上額・付加価値額を比較したところ、人材育成に取り組んでいる企業の方が、中央値で5倍近く高いという結果が出ています。
こちらも「調査結果から一概にはいえないが、人材育成の取組が業績向上につながる可能性が見て取れる」とされています。
(中小企業白書236スライド、Ⅱ-66ページ)
「人材投資は企業にとって必須であり、それができない企業は生き残れない」と、改めて実感させられるデータです。
経営者の視点から
経営者自身の変革も求められており、特に「リスキリング(学び直し)」が重要なテーマとして挙げられています。
2018年と2023年の売上額・付加価値額を比較したところ、リスキリングに取り組んでいる経営者がいる企業の方が、30~50%ほど高い結果となりました。
「調査結果から一概にはいえないが、経営者のリスキリングの取組が自社の成長に寄与することが示唆される」と記載されています。
(中小企業白書256スライド、Ⅱ-86)
社員に任せるだけでなく、「経営者自身が変化し、スキルアップをしていくことが重要である」と、ここでも強く感じさせられます。
白書には、経営に役立つ多くの示唆がデータとともに詰まっていますので、ぜひ年に一度自社を見つめ直す機会として、お目通しいただければと思います。
アタックスグループは、中小企業の皆さまが鯉の滝登りのように力強く成長できるよう、経営計画の策定から人事制度構築・人材育成に至るまで、各ステージに応じたご支援をいたします。
ぜひこちらからお気軽にご相談ください。
筆者紹介
- アタックスグループ 代表パートナー 公認会計士・税理士 林 公一
- KPMG NewYork、KPMG Corporate Finance株式会社を経て、アタックスに参画。KPMG勤務時代には、年間20社程度の日系米国子会社の監査を担当、また、数多くの事業評価、株式公開業務、M&A業務に携わる。現在は、事業評価や事前(買収)調査を担当すると同時に、株式公開プロジェクトにも参画。また、金融機関等の依頼により、多数の企業再生計画策定をサポートしている。過去の経験を活かしながら、中堅中小企業のよき相談相手として、事業承継支援やクライアント企業の後継者・幹部教育も数多く手がける。