今回は、令和7年分から適用が始まった「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」(通称:ミニマムタックス)を取り上げます。
この制度は、令和8年度税制改正で早くも見直しが決まり、令和9年分からは課税対象が大きく拡大される予定です。
M&Aによる株式売却や、高額な不動産の売却をご検討の方は、思わぬ税負担につながる可能性がありますので、ぜひご確認ください。
制度の趣旨
所得税は原則として、所得が多いほど税率が高くなる累進課税です。
一方、株式の譲渡益や配当(総合課税となる配当を除く)などの金融所得は、原則として一定税率(所得税15%)で課税されます。
そのため、金融所得の割合が高い超富裕層では、所得が増えるほど実質的な税負担率が下がる「1億円の壁」と呼ばれる現象が指摘されていました。
この状況を是正し、税負担の公平性を確保するために創設されたのが、ミニマムタックスです。
令和5年度税制改正で制度化され、令和7年から適用が始まりました。
制度の内容
給与所得や不動産所得などの総合課税の所得に加え、株式や不動産の譲渡所得などの分離課税の所得を合算した「基準所得金額」をもとに、一定の計算を行います。
次の計算式で算出した金額がプラスとなる場合、その差額を通常の所得税に上乗せして申告・納税します。
なお、NISAなどの非課税所得は基準所得金額に含まれません。
一方で、上場株式等の配当や、特定口座(源泉徴収あり)の譲渡所得などについて申告不要制度を選択した場合でも、その所得は基準所得金額に含まれますので注意が必要です。
改正前後の比較
令和8年度税制改正では、特別控除額の引き下げと税率の引き上げが行われ、令和9年分から課税対象が大きく広がります。
特別控除額 3億3,000万円 / 税率 22.5%
【改正後(令和9年分以後)】
特別控除額 1億6,500万円 / 税率 30%
控除額が半減し、税率が引き上げられるため、対象となる方が増え、税負担も大きくなります。
一方で、給与所得や事業所得など総合課税が中心の方は、もともと22.5%・30%を超える税率が適用されていることが多いため、通常はこの改正の影響を受けません。
特に影響が大きいのは、株式や不動産の譲渡益など、分離課税所得の割合が高い方です。
株式譲渡益のみの場合、追加課税が発生する目安は、改正前の約9億9,000万円超から、改正後は約3億3,000万円~3億4,000万円超へと大きく引き下げられます。
実務上の影響(事例)
例えば、M&Aにより自社株を売却し、譲渡益9億円を得たオーナー経営者を想定すると、令和8年中と令和9年以降では税負担に大きな差が生じます(復興特別所得税は考慮していません)。
・通常の所得税額:
9億円 × 15% = 1億3,500万円
・ミニマムタックス:
(9億円 - 3億3,000万円)× 22.5% = 1億2,825万円
通常の所得税額の方が大きいため、追加課税は発生しません。
・通常の所得税額:
9億円 × 15% = 1億3,500万円
・ミニマムタックス:
(9億円 - 1億6,500万円)× 30% = 2億2,050万円
ミニマムタックスの方が大きくなるため、差額8,550万円が追加課税となります。
このように、同じ9億円の譲渡益でも、売却時期によって税負担が約8,550万円変わる可能性があります。
対応のポイント

今回の改正では、株式や不動産の譲渡益をいつ計上するかによって税負担が大きく変わる可能性があります。
そのため、M&Aによる自社株の売却や高額不動産の譲渡を予定している場合は、令和8年中の実行も有力な選択肢となります。
また、役員退職金の活用など、他の節税策と組み合わせて総合的な検討することも有効です。
令和9年以降に譲渡する場合は、資産の売却時期を分散させることにより、所得が同一年中に集中しないようにすることや、保有資産の組み換えを検討することも重要です。
ただし、最適な対策は、所得の状況や保有資産によって異なります。
まずは、ご自身が保有する株式や不動産の評価額や、売却した場合にどの程度の譲渡益になるかを把握することが、適切な対策への第一歩となります。
筆者紹介

- アタックス税理士法人 社員 税理士 市岡 孝浩
- 税理士法人での勤務を経て2017年アタックス税理士法人に入社。 中小企業から上場企業まで幅広い顧客の法人税務顧問を担当し、グループ通算制度や組織再編など高難易度な税務にも対応している。顧客に寄り添った親身な対応により信頼を得ている。
