いい人財を逃さず「動機づけ」する技術~オンライン採用時代のスタンダード

経営

前回のコラムでは、オンライン面接の実態についてお伝えしました。
オンライン面接は、メリットがある一方デメリットもあります。
最大のデメリットは、オンラインでのコミュニケーションに慣れていないことに起因する「相互理解の不足」でしょう。

各種調査からも、オンライン面接に慣れていない求職者ほど、対面面接よりも、企業(面接担当者)とのコミュニケーションに難しさを感じていることが分かっています。

新卒学生のなかには、「企業のことがよく分からない」まま、内定通知を受け、判断に迷うケースが例年以上に増えているようです。

そこで、今回は、オンライン面接後の内定者のフォローについて考えたいと思います。

内定者フォローの目的

これまでは、面接などの選考プロセスの中で動機形成を終えておくことが一般的でした。

「会社説明会 → 面接(複数回) → 最終面接」という選考プロセスの中で、「この会社に入りたい」「この会社以外はありえない」というほどの動機を候補者に持たせることが理想的でした。

しかし、オンライン面接の一般化により、選考プロセスの中だけで候補者が決断できないケースが増えてきています。

こういった場合、選考とは別に非公式の場を設け、動機形成を高める機会を設定する「内定者フォロー」が必要になります。これまでも食事会や懇親会を開いたり、社員が集まるイベントに招待して、会社の雰囲気をみてもらったりと工夫する企業は多かったわけですが、コロナ禍ではそういった催しを実施することすらままなりません。

では、この状況下において、具体的にどのように内定者フォローをすれば、内定を承諾してもらえるのでしょうか?

内定者フォローのスタンス

まず、基本的なスタンスとして持つべきは、「内定者フォローは、内定者の意思決定を手助けするためにおこなう」ということ。

一方的な「売り込み」ではなく、内定者の今後の人生を考えた上で、最適解を一緒に考えていくという姿勢が大切です。そのためには、内定者のことをちゃんと知ることが欠かせません。

営業活動を例にしてみましょう。

売れる営業パーソンは、お客様の「あるべき姿」「現状」「期限」をあらゆる角度からヒアリングします。そして、認識をそろえたうえで、最良の解決策を提示します。

一方、売れない営業パーソンは、お客様の「あるべき姿」「現状」「期限」のすべてかいずれかをヒアリングできていません。そして、言語化できていないにも関わらず提案するので、売れるはずがありません。

お客様が何を求めているか?困っていることは何か?
その課題(ニーズ)に対して、解決策を提示し、価値があると認められれば、正当な対価をいただく。これが営業活動であり、企業活動です。

採用活動もこれと同じです。

さらに言えば、採用活動とは、候補者の人生の目的を知った上で、自社に入社することで得られる価値を伝える活動です。

選考プロセスのなかで得た内定者の人生の目的を再確認し、自社に入社することでそれが実現できる可能性を伝えることが、内定者フォローの基本スタンスです。
内定者自身の頭の中を一緒になって整理し、大事な進路を決める手助けをするという姿勢をしっかりと持つことが重要です。


 

内定者フォローの3ステップ

では上記の基本的なスタンスを踏まえたうえで、どのように内定者フォローを実施するのか。3ステップに分けて、解説していきます。

ステップ①:共通項のある先輩社員との面談をセッティングする

内定者フォローの目的は、選考プロセスの中で、確認できなかったことや、今の時点で就職先を決めるうえで悩んでいるネックを情報収集することです。

そのために、内定者となんらかの共通項がある社員との面談をセッティングします。共通項とは、出身地、大学、部活動などです。これらの共通項があればあるほど、内定者が本音を言いやすくなります。

内定者が、金融機関と当社とで悩んでいるとしたら、金融機関で働いた経験のある社員をセッティングします。金融機関と当社の両方の内定を受けて、最終的に当社を選んだ社員でももちろんOKです。

Uターン就職しようか、Iターン就職しようか悩んでいる候補者なら、同じ悩みを抱えた経験のある社員をアサインします。

このように相手に合わせて共通項のある社員をセッティングしていきます。
 

ステップ②:面談では情報収集と情報提供を

ステップ②の面談では、3つのことを押さえて実施します。

評価に影響を与えない「インフォーマル」の場であることを説明

内定者フォローの場は、「面接」でなく、「面談」です。

採用活動において、「面接」とは、企業が応募者の見極めを行う場という意味合いで使います。応募者にとっては企業に自分自身を理解してもらい、職務に対する意欲や能力などをアピールする場です。

一方、「面談」とは、企業と候補者が対等な関係で相互理解を深めるために設けられる場です。候補者の人生設計を確認したり、自社に入社した場合の条件などを話したり、確認する場です。

あくまでも、この場は「面談」であり、評価にはいっさい影響を与えないインフォーマルな場であるということをはっきりと説明して、相手が話しやすい場を整えることが大切です。

内定者のボトルネックを確認したうえで、自己開示を

現時点での他社選考状況、どんなことを軸にして企業選びをしているか、また悩んでいることがあるならどんな悩みがあるのか、確認していきます。

「インフォーマルな場」であり、「意思決定を手助けしたい」というスタンスを伝えれば、内定者は本音で話してくれることが多いものです。

自社を最終的に選んでもらいたいですが、そのためにボトルネックとなっていることを確実に確認していきます。

内定者が話すことにはペースを合わせていきます。「その考え方はおかしいよ」「こういう考え方を持つべき」と言いたくなる場面もあるかもしれません。

しかし、それは信頼関係が出来上がってからのこと。まだ関係構築ができていない段階では、「たしかにそうだよね」「その気持ちわかるよ」と相手にペースを合わせていきます。そうすることで、本音を言いやすい場ができます。

ペースを合わせることと同時に行なうのが「自己開示」です。

・あなたと同様に自身も会社選びに悩んだ経験があること
・最終的に当社を選んだ理由は何だったか
・当社を選んで良かったと思えること

を伝えていきます。
あくまでも「自分の場合はね」というスタンスを持って話します。

「あなたと私は別かもしれないけど、あなたと同じ共通項を持った私は、こういう理由で入社を決めたし、その決断は間違っていなかったと思っている」ということを伝えるのです。

気をつけるべきなのは、熱くなって、クロージングしてしまうこと。

タイミングによって「今だ」と思えば、クロージングしてもいいですが、あまり焦らず、まずは情報収集と情報提供に徹してみることがポイントです。

内定者とペースを合わせながら、内定者にとってクロージングすべきタイミングを見誤らないように気をつけたいところです。企業選択において、「最良の相談相手」として位置づけられるよう、まずは、信頼関係を形成しましょう。

内定者に定期的に軽い接触を

面談のようにまとまった時間以外に、定期的な接触を重ねていくことも重要です。ペースとしては週1回程度。

刻一刻と候補者の心境は変化していきます。他社の選考状況も進捗があります。しばらく放置をしておくと、連絡すら取れなくなる危険性もあります。

週に一度は、できるだけ決まった曜日、時間に電話をしてみてください。定例にすることで、気にかけてもらえている印象を持ってもらうことができます。1回の電話時間の目安は5分以内。2、3分でもいいです。回数を重ねていくことで、単純接触効果として好意を持つようになっていきます。

また、定例のコンタクトに加えて、かならず連絡をとるべきタイミングがあります。

それは、他社選考日の翌日です。心境の変化が生じやすいタイミングが他社選考日ですから、そのタイミングは押さえておく必要があります。他社の選考スケジュールは、これまでの接触ができていれば、たいてい教えてくれますので、遠慮せずに確認してください。


 

ステップ③:社長や幹部によるクロージング

然るべきタイミングでクロージングをします。これまでの公式、非公式のやり取りを振り返り、クロージングを図る段階です。

誰がやるかも重要です。会社規模にもよりますが、中小企業であれば社長です。誰が発する言葉かが重要だからです。社長が発する言葉と一般社員が発する言葉には重みが違います。

クロージングでは、次のようなことを候補者に伝えるとよいでしょう。

評価しているポイント、入社後に期待しているポイントを伝える

選考を通じて、評価しているポイント、入社後に期待しているポイントを伝えます。

人には承認欲求があります。承認されている場に身を置きたいと考える傾向にありますので、これまでの選考を通じて「あなたの○○なところを評価している」「あなたのような人財は実際に入社して活躍する可能性が高い」ということを伝えます。

採用したい理由を伝える

なぜ当社があなたを採用したいと考えているかを伝えます。

この理由が具体的であればあるほど、内定者の心に届きます。「自分のことをわかってくれている」「そのうえで、真摯にオファーしてくれている」と思うものです。

案外、「あなたに入社してほしいんだ」というメッセージをはっきり伝えていないことが内定承諾率の低い原因かもしれません。相手を動かすのは、最終的には情熱です。相手の目を見て、熱く話すことが重要です。

育成方針やキャリアイメージを伝える

内定者に合わせて、育成方針やキャリアイメージを伝えることもとても有効です。

「あなたにはぜひ当社で活躍していただきたいので、1年目には~、2年目には~、3年目には~という育成プランを考えています」と。

ここで重要なのは、実際に「そこまで考えてくれているのか」というレベルで考えるということです。最終的に、そこはテクニックではなく、相手のことを真剣に考えているかどうかの姿勢が表れます。

当社を選ぶ理由を伝える

それでも悩んでいるとしたら、当社を選ぶべきであることを伝えます。
選社基準というのは、簡単に持つことが難しいものです。ましてや働いた経験のない学生の場合ならなおのことです。社会の先輩として、あくまでも客観的に冷静にお話をするといいでしょう。

ただし、場合によっては、他社を勧めることも必要な場合があります。価値観、志向性が最終的に合わない場合には、率直に伝えて、相手の背中を押すことも必要でしょう。

それくらい本気で相手のことを考えているからこそ、相手の心をとらえるクロージングができるのです。

以上が、内定者フォローをするうえで押さえるべきポイントです。

繰り返しますが、採用活動とは候補者の人生の目的を知った上で、自社に入社することで得られる価値を伝える活動です。そして、候補者である相手が、御社で働くことで得られる価値を十分に理解し、納得して決断する。それをサポートすることが内定者フォローです。

今回のコラムを参考に、「いい人財を集め、見抜き、つかまえ、離さない技術」をさらに探求し、磨いていただけたら嬉しく思います。

筆者紹介

株式会社アタックス・セールス・アソシエイツ 採用コンサルタント 酒井 利昌
学習塾業界、人材サービス業界を経て、株式会社アタックス・セールス・アソシエイツへ入社。前職の人材サービス業界では、人材派遣、新卒採用を通じた、大学生と企業とのマッチング支援に従事。9年間で1,000社の採用支援、学生3,000人の就業支援に携わる。
現職では、年間150日以上の研修、セミナー、コンサルティング支援に従事。
予材管理のコンサルティングは、カーディーラー、住宅設備メーカー、建設・設備工事業、工作機械商社、食品包装専門商社など多岐に渡る。マネジメントの初期設計から成果を導き出すための再設計まで、組織の現状を正しく捉え、指導することに定評がある。
また、新入社員や若手社員向けの研修も実績多数。インパクトのある激しい研修指導により、目標を絶対達成させるマインドをゼロから鍛え上げており、企業からのリピートオーダーが絶えない。営業コンサルティングに加え、採用コンサルティングにも従事。超売り手市場のなか、培ってきた営業・マーケティングノウハウを採用活動に転用することで、携わった企業すべてを短期間で採用目標達成に導いている。

酒井利昌の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

著書『いい人財が集まる会社の採用の思考法』(フォレスト出版)

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