臨床検査薬のパイオニア -栄研化学株式会社

経営

西浦道明のメルマガ 2023年11月

2014年から、当メルマガでは自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。

連載111回目の今回は、東京都台東区で、医薬品、試薬、医療および理化学機械器具などの製造、販売ならびに輸出入販売を行う栄研化学株式会社(以下、E社)の池クジラぶりを見ていきたい。

E社は、1939年、東京都葛飾区で創立され、以来、臨床検査薬のパイオニアとして、先進の医療ニーズに応えられる製品・技術の研究開発に努め、信頼される優れた製品・サービスを提供し続けてきた。

そもそも「臨床検査」は、病気の診断、治療、健診に使われる検査の一つで、大きく分けて「検体検査」と「生体検査」の2つがある。

そして、E社の製品は、「検体検査」において用いられている。

「検体検査」は、人体から取り出した検体を使って行う検査のことで、「尿・糞便等の一般検査」や「血液検査」などがそれにあたる。

E社は、臨床検査薬のパイオニアとして、1987年に「免疫法(ラテックス凝集法)」を採用した便潜血検査用試薬、さらに1989年に世界初の全自動便潜血用分析装置を発売するなど、豊富な製品ラインナップと高シェアの製品群を有し、便潜血検査用試薬や尿検査用試薬などで、国内シェアNo.1を誇っている。

E社の便潜血検査用試薬がここまで高シェアを獲得した要因は、1992年に老人保健法の改正が行われ、大腸がん検診のスクリーニング検査法として受診者負担が無料の公費で受診が可能になったことも大きく影響している。

さらに、日本で実施されている「免疫法」は、人の血液のみに反応する試薬となっており、また、自動化装置による大量処理が可能だが、海外では、「化学法」による古いタイプの試薬が使われてきた。

2011年になり、漸く、欧州で「免疫法」による自動装置測定が推奨され、大きな市場の変化が現れ始めた。

またアメリカでも2016年には「免疫法」が優れていると指摘され、「化学法」から「免疫法」へのシフトが始まった。

便潜血検査市場は、ニッチな市場であるため、いち早く「免疫法」を開始した日本のE社の試薬・装置が最先端であり、世界44ヶ国において導入されているなど、海外からの信頼・評価も高い。

E社が、国内外から高く評価され続けているのは、研究開発型企業として独自性のある技術を生み出し続けているからだ。

栃木県に総合研究センターを有し、売上高の約10%を研究開発費に、そして社員の約20%を研究開発要員にあてている。

さらに、研究方針として、研究員には失敗を恐れず、新たな研究にチャレンジできるような場を提供することで、研究開発部門はチャレンジ精神にあふれ、積極的に社内外とのオープンイノベーションを推進する集団を目指し、競争力のある、付加価値の高い製品開発を行う体制が整えられている。

また、E社は自社独自の研究開発だけではなく、アライアンス戦略による多品種・多分野展開にも積極的に取り組んでいる。

経営理念「ヘルスケアを通じて人々の健康を守ります。」にあるように、国民の健康を守るという責務を達成するには、幅広い臨床検査に対応することが企業としての社会的責任との想いが根底にあるからだ。

また、臨床検査薬は、その対象・項目が多岐にわたり、すべてを自社で手掛けることは困難なのだ。

同業他社の多くが、自社の得意な技術・製品に絞っているなか、E社は臨床検査薬の総合メーカーとして、アライアンス戦略を通じて、自社の有する強みの拡大、機能の補完、新技術の取得といったシナジー効果を追求しつつ、広範に取扱製品を揃え、医療機関等のニーズに対応している。

E社は医学・公衆衛生の発展への寄与にも積極的に取り組んでいる。

E社では、1955年8月より、全国の病院臨床検査部、医学部微生物学、免疫学等の各教室、国公私立の微生物・免疫等の各種研究所、公衆衛生関係行政機関などの方々を対象とした学術情報誌『モダンメディア』を毎月発行していて、2022年7月に通巻800号を迎え、医学・公衆衛生の発展に貢献している。

E社は、研究開発に注力し、付加価値の高い製品を作り続けることと医学・公衆衛生に関する様々な情報を発信し続けることで、お客様から高い評価・信頼を得た。

E社は、臨床検査薬市場(池)のクジラとなっている。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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