障がい者を多数雇用する、人に優しい警備会社

経営

警備会社は、全国に1万社ほどありますが、私が「日本一」と高い評価をしている警備会社が福岡市にあります。

社名はATUホールディングスといいます。

同社の弱い立場の人々に対する「人思いの経営」は、正直「ありえないレベル」です。

というのは、現在の社員数は57名ですが、そのうちの22名が障がい者なのです。障がいの種別で言えば、身体障がい者が7名、知的障がい者が6名、そして精神障がい者が10名、実数では38.5%、2人としてカウントされる重度障がい者も4名雇用しているので、法定雇用率では50%をはるか上回っています。

余談ですが、半年ほど前に、お伺いした時には、雇用している障がい者の数は23名でしたので、22名になった意味を聞きました。

社長であり、創業者の岩崎龍太郎さんは「一人の障がい者が、自分の意志で障がい者手帳を返上したからです…」と言ってくれました。

この他にも、ATUホールディングスでは、引きこもりや生活困窮者であった人も5名雇用しています。社会福祉法人だとか、NPO法人ならばともかく、同社は、れっきとした株式会社です。

警備会社だけでなく、他の業種においても、こんなにも社会的弱者に優しい会社は見たことがありません。この国の宝のような弱者に優しい警備業です。

わが国企業の、障がい者法定雇用率は現在2.3%、企業の実質雇用率は2.2%です。

警備業界だけでみると、その平均雇用率は1%程度、しかも障がい者とはいえ、軽度の身体障がい者がほとんどなのです。

こうした業界にあって、これほど、障がい者雇用率の他界企業は、存在しません。

より驚くべきは、その雇用形態です。警備業界の警備員の正社員比率は、平均して1割、非正規社員の比率が9割と言われていますが、当社では、重度障がい者は、もとより、57名全員を正社員として雇用しているのです。

 
ですから、当然ですが、全社員が、社会保険にも加入しています。

また、社員の賃金面でも驚きます。

というのは、警備業界は、身体的にも精神的にも、大変な仕事ですが、賃金面では報われず、職種別賃金でみると、清掃職やミシン工と並び、低賃金職種であるのが現実です。

しかしながら、ATUホールディングスの給与は、日給が常識の業界にあって、全社員が月給制であるばかりか、業界の正社員と比較しても10%から20%も高いのです。

その理由は、警備サービスの品質はもとよりですが、スピードやトータル・変化対応といったサービスに、他社以上に高い価値を付加しているからです。それにより、価格競争に巻き込まれず、警備単価を高めに受注しているからです。    
                       
創業以来、「雇用を守る」を宣言し、厳しいコロナ過においても、リストラなどは行わず、顧客の悩みを改善提案することにより、新たな受注を確保し、全社員の雇用を守りました。

こうした、人を大切にする正しい経営を実践し続けていることもあり、同社では、辞める社員はほとんどいません。

ちなみに、警備業界では、健常者の社員でも、入社後1年で3割、障がいのある社員においては、5割が辞めるといわれています。しかしながら、ATUホールディングスの離職率は、過去3年間で見ても、わずか1.8%程度に過ぎません。

その理由は、全社員が会社を心底信頼し、そのリーダーである岩崎社長さんたちを尊敬しているからと思います。

会社の都合ではなく、一人一人の社員の都合を最優先した経営姿勢も立派です。

例えば、勤務形態も多様で、その社員が希望するように柔軟に対応しているのです。

もとより、それが可能なように、同社では常に2割程度の余剰人員を確保し、急な欠勤や発注にも対応できる体制にしているのです。ですから、無理して出勤するような社員は一人もいません。つまり、「腹八分目経営」の実践です。

こうしたことができるのも、岩崎社長が、「障がい者を区別するのではなく、配慮をすることで、やる気を高め、価値ある仕事をするとともに、自立すれば、結果として、本人はもとより、会社も社会も良くなる…」という考えのもと、時間をかけた、きめ細かい人間力と仕事力を高める教育をしているからです。

ちなみに、教育は、健常者の社員であれ、障がいのある社員であれ、機会平等を貫いています。

しかも、同業他社の大半は、警備業法に定める20時間(3日間)でのトレーニングですが、同社では、少なくとも3か月、最長では2年間の長きに及びます。

もとより、同社が、障がいのある社員等が多いということもあり、一人一人に、きめ細かい教育が行われているからです。

こうした経営が、社会に評価され、慢性的労働力不足と言われている業界なのですが、同社は全く異なります。噂を聞いたとか、口コミで、多くの人々が集まってきてくれるのです。

地元のハローワークでも信頼をされ、雇用を依頼されることも頻繁にあります。

同社のホームページを見ると「会社の目的は、社員の幸福を通して社会に貢献すること」と高らかに掲げています。このホームページを見て感動し入社した社員もいます。

余談ですが、同社は、障がい者雇用に対する国からの補助金等は一切、受けていません。これまた余談ですが、創業者であり、現社長の岩崎さんの、報酬は驚く低さです。

こうした日本の宝のような会社を困らせてはいけません。どうか読者の方々も、こうした真に世のため・人のためになる企業こそを、応援してほしいと思います。

 
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筆者紹介

坂本光司

アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長  坂本 光司(さかもとこうじ)
1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。

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