海外M&Aのゴールは成立ではない|出口から逆算する戦略設計とは | アタックス税理士法人 国際部

海外M&Aのゴールは成立ではない|出口から逆算する戦略設計とは

2026年8月3日

2026年7月、国内塗料大手が欧州企業の建築用塗料事業に対し、1兆円超の買収を提案しました。注目すべきはその進め方です。当初は他社と共同で企業全体の買収を目指しましたが実現せず、事業だけを切り出して単独で買う形へと組み替えました。買い方の設計を変え、道を開こうとしています。

海外M&Aは中堅・中小企業にも広がる一方、成否は契約締結時点に決まるものではありません。買収した企業をどう成長させ、どう売却・再編・撤退するのかまで見据えて設計できているかが問われます。

本コラムでは、出口から逆算した戦略設計の必要性について考察します。

海外M&Aの舞台は成熟市場へ|広がる選択肢と実務負荷

仲介各社による海外支援の拡大を背景に、海外M&Aは中堅・中小企業にとっても現実的な経営戦略となりつつあります。

一方で、成熟市場では案件の複雑化も進行しており、買収後まで見据えた戦略設計の重要性が見直されています。

海外支援の広がりが物語る市場変化

仲介各社では、海外拠点の拡充や専門チームの設置、現地企業との提携などが相次いで行われており、海外M&A支援を強化する動きが広がっています。

例えば、国内大手の仲介会社が 米国のM&Aアドバイザリー会社との提携を進めると発表しました。また、別の大手は インド事業支援の強化に向けて支援体制を拡充しています。

このような動きから、海外M&A支援はアジアに加え、成熟市場も視野に入れた新しい局面を迎えている様子がうかがえます。

長期化する傾向にある成熟市場のディール

成熟市場では、税制や法制度、ガバナンスへの対応に加え、交渉やデューデリジェンスにも時間を要しがちです。それに伴い、案件が複雑化・長期化する傾向があります。

こうした環境では、案件成立だけを目標に進めていくと、統合・再編・売却を見据えた対応が後手に回り、想定外のコストや経営判断の制約につながる可能性も否定できません。

海外M&Aでは、買収後を見据えて早い段階から準備を進めていく必要があります。

海外M&Aの死角|見落としやすい出口設計

海外M&Aでは、買収先の選定や条件交渉などの「入口」に注目が集まりがちです。しかし、将来の売却や再編、撤退までを見据えた設計こそが、そのあとの経営の自由度や企業価値を左右します。

買収後の展開・出口戦略は買収前に決まる

売却や撤退は海外M&Aにおける重要な経営判断の一つであり、必ずしも失敗と位置付けるものではありません。

しかし、取得時のスキームや資本構成によっては、多額の税負担や複雑な手続きが生じるだけでなく、売却条件が限られるケースもあるでしょう。結果的に買い手が見つからず機会を逃す可能性もあります。

こうした課題は、売却を検討するときに初めて表面化するケースもあります。出口戦略は買収後に考えるものではありません。買収前の設計によって、将来の選択肢の幅が大きく変わります。

出口の選択肢は取得時のスキームで決まる

海外M&Aの出口には、第三者への売却やグループ内再編、事業撤退などさまざまな選択肢があります。

しかし、現地法人を直接保有するか中間持株会社を介して保有するかといった取得時のストラクチャーによって、将来選択できる手法や税務上の取り扱いが変わります。

取得時の設計次第では、再編や売却に想像以上にコストや手間がかかるケースもあるでしょう。だからこそ、買収する時点で出口までを見据えた税務・財務の設計を行うことが重要なのです。

海外M&Aは「出口戦略」から設計する時代へ

海外M&Aが当たり前の経営戦略の一つとなっている今、求められるのは案件成立だけでなく、そのあとの成長や再編、売却までを見据えた出口戦略の設計です。

仲介各社の支援領域が成熟市場へ広がるなか、国際税務や財務を踏まえたストラクチャー設計の重要性も、より一層高まっています。構想段階から専門家が関与することで、将来の選択肢を確保しながら柔軟な経営判断につながる体制を築きやすくなります。

次回は、海外子会社からの利益還流や撤退時の課税など、国際税務の実務論点について詳しく解説します。

編集者アタックス税理士法人 国際部 編集チーム

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