生成AIはもはや単なる業務効率化ツールではありません。ChatGPTやGeminiをはじめとするAIは、今や企業活動のさまざまな場面で活用されるようになりました。
富士通が約10万人規模でClaudeの活用を進めるなど、経営基盤を支える技術として存在感を高めています。海外M&Aの分野においても、デューデリジェンスや市場調査などの実務でAI活用が進みつつあります。
一方で、2026年6月にはAnthropicの最新モデルが米政府の指令で利用停止となる事態も生じました。海外情勢や税制改正など、不確実性の高い要素を踏まえた意思決定をAIが担うことは難しいのが現状です。本コラムでは、海外M&AにおけるAI活用の現状と限界について解説します。
海外M&A実務で広がるAI活用の可能性
生成AIの進化により、海外M&Aの実務においてもAI活用が広がりつつあります。特に情報収集や分析などの業務では効率化が進み始め、デューデリジェンスや市場調査などで活用するシーンも増えると見られています。
デューデリジェンス業務の効率化
海外M&Aでは、対象企業の財務・法務・税務上のリスクを把握するためにデューデリジェンスが実施されます。近年は、契約書レビューやデータルーム内の資料整理、財務データの異常検知などの領域でAI活用が進み、業務効率化が期待されています。
ただし、AIが担うのは初期スクリーニングや補助的な分析にとどまる点に注意が必要です。最終的な評価やリスク判断には人によるチェックが欠かせません。
グローバルリサーチを加速する情報処理能力
海外企業の買収を検討する際は、対象企業だけでなく、現地市場や競合環境、規制動向など幅広い情報を集める必要があります。AIは多言語のニュースや公開されている情報を短時間で整理できるうえに、市場分析やモデリング作業の下準備にも活用できます。
人の手だと膨大な時間を要する情報処理を効率化できる点は、海外M&Aの検討を進めるにあたっての大きなメリットといえるでしょう。
AIが超えられない判断責任と不確実性の壁
AIは情報処理や分析支援に優れる一方で、経営判断そのものを代替できるわけではない点に注意すべきです。海外M&Aでは将来の不確実性も踏まえながら、人間によって最終的な意思決定を行う必要があります。
AIは経営判断を支援するツール
AIが担うのは、あくまで初期スクリーニングや補助的な分析といった一次的な処理です。形式的な確認には長けていますが、最終的なリスク判断や評価までを任せることはできません。
AIは、契約の背景にある文脈や業界特有の慣行を読み取ること、法的グレーゾーンの判断を苦手としています。海外M&Aにおいて税法解釈が複数存在する複雑な論点に対し、AIが適切な判断を下すことは困難であり、実務上の限界が存在します。この構図は今後も大きく変わらないでしょう。
前提が変化し続ける局面での判断はAIの苦手領域
海外M&Aでは、世界情勢の影響や為替変動、関税政策の変更などによって前提条件そのものが変化するリスクが存在します。過去のデータからパターンを導き出すAIは、過去のデータにないマクロ情勢への対応を苦手としています。
実際、2026年に入ってからも関税ショックや中東リスクが世界経済に打撃を与えています。エネルギー高騰やサプライチェーンの混乱も世界各地で生じています。
さらに2026年6月、Anthropicの最新モデル「Claude Fable 5」が米政府指令で利用停止となりました。AnthropicとOpenAIが上場を視野に入れ、AIが経営判断の一助として認知される中での出来事です。インフラ化しつつあるAIが、外部要因で突如止まり得る構造を示しています。こうした複雑な局面において、AIだけで最適解を導き出すのは難しいといえます。
未来を見据えた経営判断には専門家の知見が必要不可欠
AIは情報収集や分析支援において強力なツールとなりつつあります。
しかし海外M&Aでは、買収後の利益還流や二重課税の調整、BEPS 2.0対応、組織再編など複雑な論点が絡みます。いずれも唯一の正解が存在しない国際税務の課題です。
前提そのものがめまぐるしく変化する局面では、過去データの延長で動くAIだけで最適解にたどり着くのは難しいのが実情です。
国際税務の見識者が関与し、財務・税務DDから資金還流設計まで伴走できる体制こそが、海外M&Aの成否を分けます。
編集者:アタックス税理士法人 国際部 編集チーム

