令和7年12月26日に閣議決定された令和8年度税制改正大綱において、国際税務実務に大きな影響を与える改正が盛り込まれました。「企業グループ間取引に係る書類保存の特例」です。一見すると「書類保存義務の強化」に見えますが、実務への影響はそれにとどまりません。
本稿では、制度のポイントと実務上の留意点を整理します。
制度の本質
「説明責任の前倒し」が今回の改正の核心
本制度の骨格は明確です。関連者との特定取引について対価の算定根拠や役務の内容が不明な場合、それを明らかにする資料を「取得・作成し、保存すること」が義務化されています。
重要なのは以下の点です。
既存資料がなければ「作成義務」が生じる
調査時対応ではなく「事前整備」が前提
不備があれば制度上のペナルティあり
さらに、違反時には、青色申告承認の取消し対象となり得るという点で、単なる形式ルールではなく実体的な影響を伴います。
対象取引
実務で最も影響を受けるのは「販管費領域」
今回の制度は、すべての取引が対象ではありません。特に影響が大きいのは、次のような販管費等に計上される取引です。
■ 無形資産関連(ロイヤルティ等)
工業所有権、著作権、プログラム等
■ 役務提供(マネジメントフィー等)
研究開発・広告宣伝
経営管理・情報提供
■ その他これらに類する取引
親会社配賦費用
シェアードコスト契約等
一方で、売上原価・製造原価については、既存の移転価格税制で検証可能とされ、対象外と整理されています。
制度導入の背景
「実態が確認できない費用」が問題視
本制度の背景として、税務当局が直面していた典型的な課題があります。
(1)費用配賦のブラックボックス化
親会社がグループ全体の費用を集約
各社へ一括配賦
日本側では算定根拠が確認できない
実態確認ができず、所得流出の疑義が発生
(2)国外取引における情報取得の限界
海外法人が関与
反面調査が困難
資料提出が得られない
事実関係の解明に至らないケースが存在
(3)「調査時に用意すればよい」という認識
計算根拠は未保存
調査時に説明予定
結果として、実態確認不可能
これらを踏まえ、制度として明確にされたのが、「資料がなければ損金性を担保できない」方向性です。
実務インパクト
「海外だから説明できない」は通用しない
対象は以下に広く及びます。
外資系日本子会社
日本親会社(対海外子会社)
国内グループ会社間取引
特に実務上重要なのは次の点です。
親会社管理の費用でも説明責任は日本側にある
海外に資料があることは免責にならない
「不明」は制度上リスクとなる
実務上の対応ポイント
キーワードは「事前証拠主義」
対応の方向性は明確です。
① 取引実体の可視化
役務内容を具体的に説明可能か
成果物(レポート等)は存在するか
② 対価算定プロセス
配賦基準は合理的か
計算根拠を再現可能か
③ 証憑整備
契約書・請求書・見積の整合性
メール・議事録等の裏付け
④ 海外との連携体制
親会社から資料を取得できるか
保管ルールが整備されているか
まとめ
今回の改正を一言で表すと、
「後出し説明型」から「事前証拠型」への転換です。
これまで曖昧になりがちであったマネジメントフィー、ロイヤルティ、グループ配賦費用について、体系的な説明責任が求められる局面に入っています。
最後に
実務上は、「資料が存在するか」ではなく「いつでも説明できる状態か」が問われる制度に変わっています。特に国際税務領域では、一つの論点が継続的な調査リスクにつながる可能性もあるため、各案件について、証拠・ロジック・ストーリーの三点セットでの整備を早期に進めることが重要です。
執筆者:アタックス税理士法人 社員 国際部副長 税理士 永持 祐司
税務顧問から個人資産家や法人オーナーの資産税業務を含めた財産コンサルティングに従事。組織再編を活用した事業承継、財産承継コンサルティングの業務を中心にオールラウンダーなプロジェクトマネージャーとして活躍中。

