我々税務実務家が毎年待っているデータが、2025年12月2日に公表されました。国税庁による「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」です。
一読しての所感です。
全体の追徴税額が過去10年で最高(3,407億円)となったこともさることながら、「国際税務」の分野において、当局の“本気度”が数字としてあまりにも鮮明に表れていました。
「海外取引はバレにくい」「タックスヘイブンを使えば節税できる」
もし、まだそのような感覚をお持ちの方がいらっしゃれば、今回のコラムは必ず最後までお読みください。潮目は完全に変わりました。
今回は、公表されたデータと実際の調査事例を基に、今、国際税務の現場で何が起きているのかを解説します。
【現状分析】
調査件数は「減」でも、指摘金額は「激増」の衝撃
まずは、今回公表されたデータの核心部分を見ていきましょう。
以下の文章は、今回の発表における海外取引関連の数値をまとめたものです。
国税庁は12月2日、「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」を公表した。
この中では、海外取引等に係る調査等の状況も示されており、例えば、令和6事務年度の海外取引法人等に係る法人税に関する「実地調査件数」は10,195件(対前年比97.6%)となり、前年度から減少した。
この中で「海外取引等に係る非違があった件数」は2,375件(対前年比97.5%)で、このうち「不正計算があった件数」は304件(対前年比118.3%)となっている。
また、「海外取引等に係る申告漏れ所得金額」は2,096億円(対前年比73.0%)で、このうち「不正所得金額」は214億円(対前年比174.0%)となった。
また、個別の制度ごとにみると、「外国子会社合算税制に係る実地調査の状況」について、「非違があった件数」は115件(対前年比108.5%)、「申告漏れ所得金額」は527億円(対前年比254.7%)となり、前年度から増加している。
一方で、「移転価格税制に係る実地調査の状況」は、「非違があった件数」は107件(対前年比85.6%)、「申告漏れ所得金額」は399億円(対前年比77.9%)となり、前年度から減少している。
国際税務担当としての「読み解き」
上記のデータから、特に注目したのは以下の2点です。
- 「不正所得金額」が対前年比174.0%と急増していること
調査件数自体は減っているのに、見つかった不正の金額は跳ね上がっています。
これは、国税当局が「租税条約に基づく情報交換(CRS等)」や「AIによる選定」を駆使し、「確実に黒である案件」をピンポイントで狙い撃ちしている証拠です。
「とりあえず調査に行く」のではなく、「確証を持って調査に来る」時代になったと言えます。
- 外国子会社合算税制(CFC税制)の申告漏れが約2.5倍(527億円)
これは衝撃的な数字です。タックスヘイブン対策税制において、これほど巨額の指摘がなされたということは、当局が「形式的な基準」だけでなく「実体要件(経済活動基準)」を極めて厳格に見ていることを意味します。
海外子会社に実体があるつもりでも、管理実態が日本にあると認定されれば、その利益はすべて合算課税されます。このリスクが顕在化した結果と言えるでしょう。
【事例解説】「バレない」は神話。海外への資産隠しはどう暴かれたか?
今回の公表資料には、具体的な不正の手口も紹介されています。これらは氷山の一角ですが、当局の手の内を知る上で非常に重要です。
ケース1:海外当局との連携による「売上除外」の捕捉
ある法人が、廃プラスチックの輸出売上を、会社の口座ではなく代表者の個人口座に入金させるなどして隠蔽していました。
従来であれば「海外の銀行口座なら日本の税務署は追えない」と思われていた手法です。
しかし、今回の調査では、国税庁が「外国税務当局への情報交換要請」を実施しました。その結果、海外の銀行における入出金記録が丸裸にされ、隠していた売上がすべて露見しました。
私ども実務家の間でも、「情報交換制度の実効性が年々高まっている」と話題になっていましたが、まさにその威力が発揮された事例です。
ケース2:親会社経由の支払いに潜む「源泉徴収漏れ」
日本法人が、海外のソフトウェア開発会社(X社)を利用する際、直接支払わず、海外の親会社に「立替払い」を依頼していたケースです。
「親会社への送金(立替金の精算)だから、源泉徴収は不要だろう」という安易な判断が命取りになりました。
当局は、「実質はソフトウェア開発という『技術上の役務提供』への対価である」と認定し、源泉所得税の徴収漏れを指摘しました。
これは、グローバルグループ企業で非常によく見られるミスです。「Invoiceが親会社から来ているから大丈夫」ではありません。
「何に対する支払いか(所得の源泉地はどこか)」という本質を見誤ると、後で20.42%の税金+不納付加算税を支払うことになります。
【移転価格の現場】数字の「減少」に騙されてはいけない
データ上、移転価格税制の追徴額は減少していますが、これを「リスク低下」と捉えるのは危険です。
現場の肌感覚としては、移転価格調査はむしろ「長期化・深度化」しています。
数字が減った一因として考えられるのは、企業側が「事前確認(APA)」へシフトしていることです。APAの申出件数は175件(対前年比112.9%)と増加しています。
「後から巨額の追徴を受けるリスク」を避けるため、事前に税務当局と価格設定について合意しておく動きが加速しています。
これは、国際税務ガバナンスが成熟してきた証とも言えますが、逆に言えば、「無防備な企業」は相対的に目立ち、ターゲットになりやすくなるとも考えられます。
国際税務担当からの提言 ~今、経営者がすべきこと~
今回の調査事績から導き出される対策は明確です。
AIと国際情報網で武装した国税庁に対し、「隠す」ことは不可能です。必要なのは「適正な管理」と「証拠の保存」です。
・「経済実体」の再点検(CFC税制対策)
軽課税国にある子会社について、「現地で事業を行っている」と言い切れる証拠(現地スタッフの雇用契約、事務所の賃貸契約、独自の意思決定を示す議事録など)は揃っていますか?
「ペーパーカンパニーではない」というだけでは不十分です。
・クロスボーダー取引の契約書・実態確認 海外への送金について、その対価性が曖昧なものはありませんか?
特に「経営指導料」「ロイヤリティ」などは、役務提供の実態を示すレポートやメールのやり取りを必ず保存してください。
・「消費税還付」の適正化
今回のレポートでは、輸出免税を悪用した不正還付への厳しい対応(追徴51億円)も強調されています。税関との連携も強化されていますので、輸出取引のエビデンス管理はこれまで以上に厳格に行う必要があります。
最後に
AIが「怪しい法人」をリストアップし、海外当局から「銀行口座情報」が届く。
まるでSF映画のような話ですが、これが令和6年の税務調査のリアルです。
特に国際税務の分野は、一度指摘を受けると、追徴税額が億単位になることも珍しくありません。
しかし、事前に適切なロジックを構築し、文書化しておけば、防げるリスクの大半は防げます。
「うちは大丈夫かな?」と少しでも不安を感じられた際は、ぜひお声がけください。 クライアントの海外展開を、税務リスクの側面から全力でガードいたします
執筆者:アタックス税理士法人 社員 国際部副長 税理士 永持 祐司
税務顧問から個人資産家や法人オーナーの資産税業務を含めた財産コンサルティングに従事。組織再編を活用した事業承継、財産承継コンサルティングの業務を中心にオールラウンダーなプロジェクトマネージャーとして活躍中。

