2025年分から、超富裕層の金融所得に最低税負担を課す「ミニマムタックス税制」が始まります。
直ちに多くの人に影響はないものの、制度の目的や内容、影響範囲について整理します。
導入目的
「1億円の壁」を埋める発想 株式配当や譲渡益などの金融所得には、長らく概ね20.315%の分離課税が適用されてきました。
その結果、所得が非常に高い層ほど平均税負担率が下がる「1億円の壁」が指摘され、税制の公平性が論点になっていました。
政府は令和5年度改正で是正方針を示し、超高所得者の最低負担を確保する仕組みとしてミニマムタックスを導入します。
適用は2025年分の所得から、実際の申告は2026年の確定申告時となります。
対象と適用条件
対象は「基準所得3.3億円超」で、超富裕層の金融所得偏重による負担軽減を補正する補完課税です。
- 対象者:基準所得金額が3.3億円を超える納税者(主に金融所得が中心の超富裕層)
- 算定式:(基準所得金額-3.3億円)×22.5%-既納所得税額=追加徴収額
- 趣旨:高い所得水準に見合う最低税負担を確保。給与・事業所得中心の高所得者は、既に高い累進税率がかかるため原則対象外。
誰にどのような影響?
簡易シミュレーションで見る閾値、以下は理解を助けるための簡便試算です(従来計算は便宜上、所得税部分15%で計算)。
- 配当4億円
従来:6,000万円/新制度:(4億-3.3億)×22.5%=1,575万円 → 影響なし
- 配当10億円
従来:1億5,000万円/新制度:(10億-3.3億)×22.5%=1億5,075万円 → 追加75万円
- 配当30億円
従来:4億5,000万円/新制度:(30億-3.3億)×22.5%=6億75万円 → 追加1億5,075万円
示唆として、金融所得のみの場合、影響が出始めるのは概ね「10億円前後」から。
配当・譲渡益比率が高い超富裕層ほど影響が大きくなります。
具体的に対象となり得るケースは?
一時的に下記のような取引がある方は注意が必要です。
- M&A(企業売却)や株式譲渡で一時的に高額な所得が発生する場合
- 相続対策や事業承継に伴い自社株を移動させる場合
- 大規模な不動産売却がある場合
- 組織再編、合併、株式交換などによる資産移転がある場合
- スタートアップ経営者の株式上場時のキャピタルゲインがある場合
資産戦略への示唆:いま考えておきたいこと
- 該当可能性の確認:2025年以降の基準所得見込みと既納税額を早めに試算し、株式配当政策(受取配当)や持株売却計画は、確定申告前に再点検を行いましょう。
- キャッシュフロー管理:追加徴収は申告時に一括で生じます。高配当戦略や大口利確を予定する年は、納税資金の準備を行いましょう。
- 中長期の制度対応:対象者は限定的でも、「最低負担」という発想は今後の税制全体に波及し得ます。所得構成(給与・事業・金融)や居住地選択、法人・個人の使い分けなど、複数年視点でプランニングを行いましょう。
- 専門家連携:損益通算・繰越控除の扱い等で結果は変わります。税理士等の専門家と前提を共有し、条文・通達の確認を踏まえて最終判断を行いましょう。
まとめ
これまでの税制では、金融所得の多くは分離課税で低率で処理されてきましたが、今後は全体の税負担率が22.5%を下回らないよう強制的に補正されるため、事前のシミュレーションや計画的な対策が重要です。