関税影響のその先へ ~金利・為替の変動リスクと日本企業の次なる一手 | アタックス税理士法人 国際部

関税影響のその先へ ~金利・為替の変動リスクと日本企業の次なる一手

2025年8月29日

2025年7月、米国の日本に対する追加関税は15%で合意しました。25%の高関税は回避できたものの、今後への影響は依然として不安視されたままです。

今回は中小企業の経営者向けに、追加関税で懸念される影響と対処方法を3つの視点から解説します。

企業は今後、変動シナリオの複数想定とそれに耐えうる財務基盤を構築する視点が不可欠です。自社の財務状況を客観的に把握して、リスクに備えた経営戦略を立てましょう。

関税の影響|2025年後半は複合リスクのフェーズへ

当初25%とされていた追加関税は、最終的に15%で妥結しました。

関税による事業縮小や倒産件数の増加が懸念されるなか、国内企業各社の2025年第1四半期決算が発表されました。結論からいえば、企業の決算状況は業種によって大きく明暗を分けたものとなっています。

AI関連や内需型の企業が全体的に利益増とした一方、鉄鋼・運輸(船)は多くの企業が利益減となりました。特に自動車メーカーは、依然として厳しい状況です。

関税率は当初予定より引き下げられたものの、心配の声は続いています。しかし、関税の影響は表出するリスクの一つに過ぎません。真のリスクは、国内政局の不安定化を起点とする「金利」と「為替」の変動が絡んだ複合的な影響です。

関税の影響を受けて派生する3つの国内リスクを解説

関税で受ける影響には複合的な要因が絡むため予測は困難です。しかし、企業は今後起こり得る可能性を、できるだけ詳細に把握する必要があります。

関税の影響から派生する国内リスクを以下の3つに分けて解説します。

  1. 政局不安が引き起こす米国との交渉リスク
  2. 借入コストを直撃する国債発行による金利上昇リスク
  3. 仕入コストを圧迫する為替変動リスク

各リスクを十分に理解し、危機的状況に備えましょう。

政局不安が引き起こす米国との交渉リスク

政権のぐらつきは、関税交渉に負の影響を与える恐れがあります。交渉期限の直前に行われた参議院選挙では政府与党が敗北し、衆参両議院で与党の議席が過半数を割るに至りました。

与党敗北のニュースは、日本だけではなく米国をも揺るがしました。米国メディアでは「与党敗北で関税交渉に混乱が生じる恐れが高まる」と報道されています。

今後の国内政治は、与野党の意見集約がこれまで以上に難しく不安定になると考えられます。

借入コストを直撃する国債発行による金利上昇リスク

与党の大敗により、野党の提案する消費税減税や給付金が予算案に盛り込まれる可能性が考えられます。財源は、国債が濃厚です。

国債発行と関税による影響で国内インフレが過剰になり、抑制のため金利を上げる可能性があります。金利上昇は、銀行から事業資金を借り入れる企業には大きな負担です。なかには、資金計画や設備投資の見直しに迫られる企業もみられるでしょう。

ただし、実質賃金は6カ月連続マイナスと厳しい状態です。関税の影響次第で、利上げは困難との結論に至る可能性もあり得ます。日銀は7月末時点で「政策金利は現状据え置き」と慎重な構えを取っています。

仕入コストを圧迫する為替変動リスク

円安による企業の仕入れコスト増も、リスクの一つです。

金利が上昇すれば円高になるのが一般的です。ただし、日米の金利差が縮まらなければ、日本の円安は続きます。関税と円安による輸出減・コスト増のダブルパンチは、企業に想定外のダメージを与えかねません。特に製造業・建設業・飲食業は、注意が必要です。

一方、現時点では円高の流れであり、米国の利下げと日本の利上げが同時期に起これば円高も考えられます。

関税の影響が為替変動リスクと重なり、企業は円安と円高に振り回される懸念があります。

関税の影響を想定した財務ストレステストのすすめ

関税の影響を踏まえた企業経営には「マクロ経済の変動シナリオを複数想定し、それに耐えうる財務基盤を構築する視点」が不可欠です。

「金利が1%上昇したら?」「円がドルに対して10円安くなったら?」といった具体的なシナリオを設定して損益分岐点の変化を観測する「ストレステスト」の実行も重要です。テストでは「有利子負債の額と金利タイプ(固定/変動)」「輸入依存度」「価格転嫁の難易度」などを特に注視しましょう。

編集者アタックス税理士法人 国際部 編集チーム

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