円安傾向に加え、世界的な金利差を背景に、個人でも米ドルを活用した預金や投資に取り組むケースが増えています。
しかし、こうした外貨資産の運用には、所得税との関連で注意すべき点が多数存在します。特に雑所得となる「為替差益」など、確定申告の申告漏れに対する税務調査の指摘が後を絶ちません。
今回は、「ドル建て預金や投資に関する個人所得税の取り扱い」について、国際税務の視点から税務上の留意点、税務調査での指摘事例、そして顧客対応時のヒアリングポイントをわかりやすくまとめました。
為替差損益は「雑所得」
ドル預金を10年積み立てていたAさん。
1ドル=100円で預けたドルを、1ドル=140円のタイミングで円に戻しました。このときの利益(1ドル40円分)は「為替差益」となり、原則として雑所得として課税されます。
ポイントは、外貨を円に換金、または他の通貨(ドルからユーロ等)に転換または、他の商品(外貨定期預金から外貨建債券)へ転換時に課税されます。
なお、ドル建て商品の利子や配当、売却益は他の所得区分(利子所得・配当所得・譲渡所得)で扱われ、為替部分のみが雑所得となる場合もあるため、所得区分の判別が極めて重要です。
税務調査で多い指摘事例
税務調査においてドル関連取引が対象となる場合、以下のような点がよく指摘されます。
1.為替差益の申告漏れ(ドル預金の換金時等に無申告)
2.外貨建て投資商品の売却時に、取得価額・売却価額の円換算レート誤り
3.外貨の配当・利子の源泉税や外国税額控除の誤り
4.雑所得20万円以下の申告不要の認識の誤り
確定申告時のチェックポイント
確定申告において、外貨関連取引に関して以下の点を確認しましょう。
☑ ドル預金を換金・他の外貨建て商品等にしていないか?
☑ ドル建て商品の売却・分配はあったか?またレートの把握は正確か?
☑ 各所得の種類を正しく仕分けできているか?
☑ 雑所得が20万円を超える見込みはないか?
☑ 外国税額控除の対象となる配当・利子などはあるか?
顧客対応におけるヒアリングのポイント
実際に顧客から情報を聴取する際には、以下のような視点でヒアリングを行います。
ヒアリング漏れを防ぐことで、申告漏れ・税務調査時のリスクを軽減できます。
外貨建て預金・口座の有無
- 外貨預金(ドルを中心とした)の口座はお持ちですか?
- ご本人名義でしょうか?ご家族との共有・委託預けはありますか?
換金・送金の有無
- 過去1年間で外貨を円に換金した取引はありますか?
- 海外送金など外貨の使用はされましたか?
外貨建て資産の投資状況
- 米ドル建ての株式や債券、投資信託をお持ちですか?
- 購入時と売却時の為替レート情報を記録・管理されていますか?
配当・利子収入の有無
- 外貨ベースの配当や利子収入がありましたか?(証券口座の取引明細を確認)
- 配当に関して外国で課税された場合、日本でも申告されていますか?
雑所得の規模感確認
- 外貨取引により生じた所得は、およそ年間でいくら程度になりますか?
- お勤め先は給与所得のみですか?事業・不動産等の他所得はありますか?
資産全体・国外財産との関係
- 海外資産が5,000万円を超える場合、国外財産調書の提出義務が発生していますが、ご存知ですか?
おわりに
外貨預金やドル建て投資は、資産運用や通貨分散の有効な手段である一方、所得税の側面では為替差益や雑所得の課税、所得分類の誤認など、想定外の申告義務が発生しやすい分野です。
こうした取引は取扱いが複雑であるため、ちょっとした認識の違いや記録漏れが、税務調査時の指摘につながるリスクとなり得ます。
執筆者:アタックス税理士法人 社員 国際部副長 税理士 永持 祐司
税務顧問から個人資産家や法人オーナーの資産税業務を含めた財産コンサルティングに従事。組織再編を活用した事業承継、財産承継コンサルティングの業務を中心にオールラウンダーなプロジェクトマネージャーとして活躍中。