米国が主張する、いわゆる「相互関税」の発動に関して、参院選後の7月23日に急遽15%で妥結しました。これを受けて、日本の株式市場は好感し、自動車関連をはじめ国内企業の株価は大幅上昇に転じました。
しかしながら、政権与党の基盤の弱体化も深刻化し、8月以降の政局は不透明です。展開によっては大きな影響が日本企業に降りかかるでしょう。
今回の記事は、関税への対策を迫られる企業の経営者様に向け、今後想定されるシナリオとそれにともなう影響、事業モデル別の対応事例を解説します。関税の影響による業績悪化・利益の押し下げに対応するためにも、ぜひ参考にしてください。
関税の影響とは?企業は2025年8月以降を織り込む
米国から受ける相互関税は15%で落ち着きをみせました。懸念点であった個別の関税、とりわけ自動車についても15%となります。
当初よりは緩和されたものの、従来から大幅に引き上げられた点では変わりありません。2025年8月以降、関税を想定した動きは避けられないでしょう。
以下で、代表的な企業の現況を説明します。
大手企業の動向|業績の下方修正は不可避
産業ロボット大手の安川電機は、2026年2月期の通期業績予想を大幅に下方修正しています。理由は、米国の関税対策で需要の先行き不透明感が高まったためです。決算短信によると、売上が前回予想の5,500億円から350億円減少。営業利益は170億円の減少、当期利益は前回予想から約3割(29.0%)の減少との見込みです。
また、自動車メーカーのホンダでは4月時点で関税影響を6,500億円と試算し、2,000億円の挽回努力を目標に掲げています。
一方、トヨタの出したガイダンスでは、関税によって1,800億円(4-5月分)の影響を受けると試算して、織り込みに動いています。「場当たり的な価格転嫁はしない」方針を貫く構えです。関税コストを自社で吸収し、市場シェアを守り抜く強い意志を示しています。
(注)トヨタ・ホンダは8月上旬に最新決算
関税リスク|迫られるビジネスモデルの変革
関税の影響は避けられない──2025年7月時点でもはや「シナリオ」ではなく「確定事項」として決定づけられました。今後、各企業は従来のビジネスモデルではなく、8月1日以降の(交渉により数値は変動すれど)関税によるマイナス分を挽回する動きが求められます。
米国向けの飲食チェーン・店舗経営・サービス業を行う企業は、一部撤退も視野に入れつつ事業計画の見直しが必要です。具体的な策として、事業の多角化・生産拠点の変更・コスト削減への取り組みなどが挙げられます。
日本食ブームが続く米国は、海外向け食品会社にとって大切な取引国です。関税は一般的に輸入者・輸入業者側が支払いますが、関税分の値上げを行うと消費者や輸入業者離れにつながる恐れがあります。相互関税が課されると、自社負担が必要になる場面もあるでしょう。
関税の影響を乗り切る企業の対策事例
大手企業は相互関税の影響をどのように乗り切ろうとしているのでしょうか。ここでは、関税に対応するヒントとして、大手企業の対策事例を紹介します。
ソースネクスト|サプライチェーンの多様化でリスク分散
関税の影響を小さくするには、サプライチェーンの多様化が重要です。例えば、ポケトークで知られるソースネクストは、関税対策として生産拠点を中国から税率の低いベトナムに移しています。
このように、関税率に応じて出荷国を変えるのも1つの方法です。
参照:ソースネクスト:「「ポケトーク」の生産拠点の新設に関するお知らせ」
キッコーマン|米国生産拠点での輸入コスト分を価格転嫁
米国に生産拠点を新設し、現地の生産力を強化するのも有効な手段です。
海外に向けて幅広い事業展開を行うキッコーマンは、米国に3つめの新工場を建設している最中です。使用する素材や容器包装も米国産を採用し、関税の影響を極力回避できるようにしています。
これから生産拠点を構える企業は、関税対策として米国を拠点にするのもよいでしょう。
参照:キッコーマン「キッコーマン 米国第3工場建設に関するお知らせ」
トヨタ・ホンダ|生産拠点の変更と事業の多角化
ホンダはカナダ・メキシコなどから輸入する完成車の約55万台について、米国の追加関税を受ける対象としています。一部の報道によると、これらについて将来的に生産を米国へ移管する推測記事も出ました。ホンダから正式な発表はありませんが、報道側が根拠としているのは、年間6,634億円の利益を稼ぐ二輪事業の下支えです。
一方のトヨタも米国での生産を増やす「地産地消」で対応を図っていますが、まずは1,800億円(2カ月分)の関税影響を自社の財務力で吸収し、国内生産も守る「横綱相撲」の構えです。
ホンダは「積極策」トヨタは「持久戦」とアプローチの違いは鮮明ですが、生産拠点を米国にシフトする方向性は同様といえます。
関税の影響を考慮した財務シミュレーションは必須!
関税による企業業績は、規模の大小を問わずマイナスの影響を受ける可能性があります。
当面は現政権による体制が継続することとなり、一応の安定感があるとの見方が大勢です。しかしながら、国内政局の動きと対米交渉の行方は不透明な状況が続く見込みです。
関税による影響は9月から10月にかけて顕在化するといわれています。その点を踏まえて、早めの財務趣味レーションに取り組んでおきましょう。