租税条約の基礎知識を整理!                       ~租税条約を有効に活用しよう~ | アタックス税理士法人 国際部

 租税条約の基礎知識を整理!                       ~租税条約を有効に活用しよう~

2023年12月20日

国際税務を理解するうえで

租税条約の知識は切っても切れない重要なものです。

今回は、租税条約の知識を整理し、どのような場面で活用されるかについて解説します。

1.租税条約とは 

租税条約は、二国間で締結される条約であり、

企業が海外に進出すると、その企業が本国と進出先の両方で課税されることがあります。

これが二重課税と呼ばれる現象です。

また、各国の税制が異なるため、国際取引が脱税や租税回避の手段として悪用される可能性もあります。

このような問題を解決し、二国間の健全な投資や経済交流を促進するために、租税条約が締結されます。

2023年7月1日時点で、日本は84の条約などを通じて153の国や地域と租税条約を結んでいます。

日本では、国内の税法よりも租税条約が優先されるのが基本です。

ただし、国内法を適用したほうが有利な場合は、例外として国内法が優先されます。

租税条約は、1963年に作成された「OECDモデル租税条約」が国際標準となっています。

OECDモデル租税条約は、OECD加盟国が租税条約を締結する際のモデルとなるものです。

国際課税の変化や経済情勢に応じて、これまで複数回の改定が行われてきました。

OECD加盟国である日本は、基本的にOECDモデル租税条約に基づいた規定を採用しています。

2.租税条約の主な内容 

(1)源泉地国が課税できる所得の範囲の確定

「源泉地国」とは、所得が生じる国を指します。

租税条約では、源泉地国が課税できる所得についてルールが定められています。

事業所得に関しては、「PEなければ課税なし」という原則があります。

ここでのPEとは、恒久的な施設を指します。

通常、海外支店や12ヵ月以上存在する建設工事現場などがこれに該当します。

国内企業が海外で事業を行う場合、課税されるのは、源泉地国に所在するPEの活動によって獲得された事業所得のみです。

配当や利子、使用料といった投資所得については、源泉地国において免税を含めた税率の上限が設定されます。

例えば、国内の親会社が海外子会社から配当を受け取る場合、租税条約において、

その配当に対して源泉地国が課税できる税率の上限が定められています。

(2)居住地国における二重課税の排除方法

①国外所得免除方式

国内での税金計算時に、海外で得た所得(国外所得)を対象外とする方法です。

具体的な例として、「外国子会社配当の益金不算入制度」があります。

これにより、一定の外国子会社から受け取る配当の95%は益金不算入となり、大部分の配当が課税所得に含まれないため、二重課税の排除が可能です。

②外国税額控除方式

海外で課税された税額を、国内の納税額から差し引く方法です。

国内で税金を計算する際に「外国税額控除」を適用することで、同じ所得に対する二重課税を回避できます。

これにより、海外で課税された税額分が国内の納税額から差し引かれ、重複して課税されることが防がれます。

これらの方法は、国際的な事業展開において二重課税を排除し、税制の効率的かつ公平な運用を促進するための手段として利用されています。

(3)税務当局間の相互協議や仲裁、情報交換

①相互協議

国際取引において二重課税が発生した場合、納税者が申し立てを行うことで、関連する税務当局間で相互協議が行われます。

企業にとっては、相互協議は二重課税を解消する手段となります。

関係する国の税務当局が協力して問題を解決し、公平な税制を確立するための措置が講じられます。

②仲裁

相互協議がうまく進展しない場合、租税条約では仲裁手続きが規定されています。

仲裁は、納税者と関与する国の税務当局とは異なる第三者によって行われます。

仲裁は、紛争解決の迅速かつ公正な手段として機能し、二重課税の是正や納税者の権利保護に寄与します。

③情報交換

税務当局間の納税者情報の交換についても、租税条約が規定しています。

これは、脱税や租税回避を防ぐために、二国間で銀行口座情報を含む納税者情報を交換する仕組みを整備しています。

この情報交換により、不正な税務行為の摘発や予防が図られ、税制の透明性が向上します。

3.租税条約の軽減税率が適用されるための手続

租税条約は、法律と同じく自動的に適用されますが、軽減税率の適用を受けるためには原則として届出が必要です。

具体的には、支払者(源泉徴収義務者)を通じて、税務署に「租税条約に関する届出書」を提出する必要があります。

ただし、届出書の提出においては、所得の源泉地によって所得の受益者が国内企業と海外企業の

どちらになるかに注意する必要があります。

以下は、具体的なケースごとの留意点です。

① 日本が所得の源泉地で、海外企業が所得の受益者の場合

この場合、日本企業が国内で「租税条約に関する届出書」を提出します。

② 海外が所得の源泉地で、日本企業が所得の受益者の場合

この場合、一般的には、海外企業がその国で「租税条約に関する届出書」を提出します。

例えば、日本の親会社が海外子会社から配当や利子を受け取るケースがこれに該当します。

したがって、届出書の提出先は、所得の源泉地と受益者がどちらであるかによって変わります。

この留意点を理解し、正確な手続きを行うことが、軽減税率の適用を円滑に進めるために重要です。

その他、「特典条項」が設けられている場合があります。

特典条項は、租税条約を締結した国において、実体のない法人(通常はペーパーカンパニー)を設立し、

その法人を介して取引を行うことで、租税条約の軽減税率を不当に利用しようとする企業を排除するための規定です。

特典条項の適用対象となる所得に対して、軽減税率や免除を受けるためには、届出時に「居住者証明書」などの提出が求められます。

この証明書は、企業が実際に特定の国に居住していることを確認するためのものであり、

軽減税率の利用が正当なものであることを示すものです。

特典条項は、租税条約を不正に利用しようとする企業に対する規制措置として導入されており、

公正な税制の維持と不正の防止を目的としています。

4.租税条約の適用が想定されるケース

(1)従業員が海外で勤務する場合

国内の親会社の従業員が海外で勤務するケースです。

給与所得については、原則として、従業員が勤務する国に課税権があります。

ただし、以下3つの要件をすべて満たす場合は「短期滞在者免税」が適用され、海外現地において給与所得が免税となります。

 ➀相手国での滞在が183日以下であること

 ➁相手国の居住者でない雇用者等が報酬を支払っていること

 ➂相手国内に存在する支店等が報酬を支払っていないこと

上記の要件を満たさない場合は、給与所得に対して国内と海外の両方で課税されるため、二重課税となります。

この二重課税を解消するには、確定申告で外国税額控除の適用を受け、外国で支払った税金を控除することになります。

(2)海外企業とライセンス契約を締結する場合

国内企業が海外のブランド品を販売するために、海外企業とライセンス契約を締結し、使用料(ロイヤルティ)を支払うといったケースです。

国内企業が海外企業に使用料を支払う際は、日本の国内法に基づいて源泉徴収が必要です。

ただし、相手国と租税条約を締結している場合は、ほとんどのケースで源泉徴収税率が低くなります。

税率が低ければ相手企業の手取りが多くなるため、ビジネスが促進されます。

(3)海外子会社から配当を受ける場合

国内の親会社が、海外子会社から配当を受け取るケースです。

租税条約では、源泉地国における税率の上限が設定されています。

これにより、海外現地の国内法上の税率と租税条約の税率を比較し、有利な税率を選択することができます。

一般的には、租税条約の税率が国内法上の税率よりも低いことが多いため、租税条約の税率を選択することが有利です。

ただし、国によっては租税条約の税率を適用するため、必要な手続きが異なるため、具体的な適用時には現地での手続きの確認が必要です。

また、海外子会社からの配当については、日本の国内法においても特例的な措置が認められています。

具体的には、「外国子会社配当の益金不算入制度」があり、以下の要件を満たす場合には、配当金の95%について免税の適用を受けることが可能です。

 ①国内の親会社が発行済株式の25%以上を保有していること

 ②親会社の株式保有が6ヵ月以上であること

これらの要件を満たす場合、免税の適用が可能となります。

5.まとめ 

租税条約は、国と国の税制を調整し、国際取引を円滑に進めるためのものです。

租税条約は対象となる国によって内容が異なります。

企業が海外で事業を展開する場合は、その国との租税条約をきちんと理解することが重要です。

国内法と比較して適切な税率を選ぶことが大切です。

これにより、税金の負担を最小限に抑えることができます。

併せて、税金に関する問題を回避し、効果的な税務戦略を立てることもできます。

税制に関する専門知識やアドバイザーの協力を得ることも、円滑な国際ビジネスの遂行において有益です。

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