2026年版「中小企業白書」の注目ポイントと今年のキーワード
今年も「中小企業白書」が公表されました。
今回は、2026年版「中小企業白書」の中から、特に注目すべきポイントについてお話ししたいと思います。
昨年の白書では、為替・物価・金利の上昇に加え、構造的な人手不足により、中小企業・小規模事業者を取り巻く経営環境が依然として厳しい状況にあることが示されていました。
キーワードは「経営力」だったといえるでしょう。
白書では、「経営」「人」「経営者」という3つの視点から、この「経営力」を分析していました。
では、今年のキーワードは何でしょうか。私は、「労働生産性」だと捉えています。
労働生産性とは?中小企業に求められる「稼ぐ力」
労働生産性は、次の式で表されます。
労働生産性とは、社員一人あたり、または1時間あたりに、どれだけの付加価値を生み出しているかを示す指標です。
ここでいう付加価値とは、売上から仕入れや外注費などを差し引いた、会社が新たに生み出した価値を指します。
たとえば、同じ10人で働いていても、より高い利益や価値を生み出せる会社は、労働生産性が高い会社だといえます。
そう考えると、重要になるのは、「いかに付加価値を高めるか」です。これこそが、白書でいう「稼ぐ力」です。
価格転嫁・高付加価値化・M&Aで付加価値を高める
そして、「稼ぐ力」を高める方法の一つが価格転嫁です。
ただし、単に「値上げをお願いします」と伝えるだけでは、取引先の理解を得ることは難しいでしょう。
重要なのは、「なぜその価格改定が必要なのか」を、根拠をもって説明することです。
たとえば部品加工会社であれば、「全品一律5%値上げ」ではなく、材料費の影響が大きい品番は8%、手間がかかる小ロット品は10%、量産品は3%というように、根拠に基づいて価格改定を行う必要があります。
そのためには、品番別・取引先別の採算を把握し、材料費・人件費・エネルギーコストなどの上昇を具体的に示す必要があります。
価格交渉は営業任せにせず、社長、製造責任者、経理部門が一体となって進めるべきです。
さらに、商品・サービスそのものの高付加価値化も欠かせません。
製造業であれば、単なる受託加工にとどまらず、設計提案、短納期対応、品質保証、試作支援まで含めた「提案型サービス」への進化が求められます。
飲食店であれば、単なるランチ提供ではなく、地元食材の活用、健康志向メニュー、個室対応、法人向け会食プランなど、「高くても選ばれる理由」をつくることが重要です。
また、白書では、事業承継やM&Aも「稼ぐ力」を高める手段として位置づけられています。
これは非常に重要な視点です。
事業承継やM&Aは、後継者がいない会社を単に救済するための手段ではありません。事業の組み合わせによって、新たな付加価値を生み出すための成長戦略でもあります。
たとえば、地域の設備工事会社が、後継者不在の電気工事会社を引き継いだとします。これにより、空調、配管、電気工事を一体で請け負えるようになれば、顧客の利便性は大きく高まります。
その結果、受注単価の向上や取引機会の拡大にもつながります。
DX・AIで労働投入を最適化し、労働供給制約を乗り越える
一方で、労働生産性を高めるためには、労働投入量を最適化することも重要です。
人手不足の時代、白書ではこれを「労働供給制約」と表現していますが、「人が足りないから採用する」という発想だけでは限界があります。
重要なのは、今いる人がより高い成果を出せる仕組みをつくることです。
そのために必要となるのが、DXやAIの活用です。
たとえば建設業では、現場監督が日中は現場に出て、夜は事務所に戻って日報作成や写真整理、請求書処理を行っているケースがあります。
こうした業務も、現場写真のクラウド管理、日報アプリ、請求書の電子化などを導入することで、大幅に効率化できます。
結果として、残業削減、離職防止、若手人材の採用力向上にもつながります。
おわりに

今、経営者が取り組むべきことは明確です。
どこで付加価値を増やすのか。
どこで無駄な労働投入を減らすのか。
そして、その成果をどのように社員に還元するのか。
この一連の流れを、経営として設計することが求められています。
アタックスグループでは、「稼ぐ力」の向上に向けて、商品別・顧客別・部門別の利益の見える化、赤字取引・低採算業務・属人的業務の洗い出しを支援しています。
また、「労働供給制約」を克服するために、人事評価制度の整備や人材育成の仕組みづくりについてもサポートしています。
中小企業にとって、労働生産性の向上は、単なる効率化の話ではありません。賃上げを実現し、人材を確保し、会社を持続的に成長させるための経営課題そのものです。
2026年版「中小企業白書」は、私たちにこう問いかけています。
「限られた人材で、いかに高い価値を生み出す会社に変わるのか」
この問いに正面から向き合うことが、ますます重要になっていくのではないでしょうか。
筆者紹介

- アタックスグループ 代表パートナー 公認会計士・税理士 林 公一
- KPMG NewYork、KPMG Corporate Finance株式会社を経て、アタックスに参画。KPMG勤務時代には、年間20社程度の日系米国子会社の監査を担当、また、数多くの事業評価、株式公開業務、M&A業務に携わる。現在は、事業評価や事前(買収)調査を担当すると同時に、株式公開プロジェクトにも参画。また、金融機関等の依頼により、多数の企業再生計画策定をサポートしている。過去の経験を活かしながら、中堅中小企業のよき相談相手として、事業承継支援やクライアント企業の後継者・幹部教育も数多く手がける。
