2025年という転換点を振り返って
早いもので、気が付けば2025年最終号をお届けする時期となりました。
2025年は、乙巳(きのと・み)の年でした。乙巳は、「再生」や「変革」を重ねながら前に進んでいく年とされています。
皆さまにとって、この一年はどのような年でしたでしょうか。
今年を振り返ると、
- 日本初の女性首相の誕生
- 日経平均株価が52,000円を記録
- マイナス金利解除が特別なニュースではなくなった
- 先の見えないウクライナ・ロシア情勢
- 中国経済の減速
など、経営者として見過ごせない出来事が続きました。
「AIが前提」になった2025年
その中で私が「2025年に起きた最も大きな変化を一つ挙げるとしたら何か」と問われたなら、迷わずこう答えます。
「AIが“試すもの”から“前提”になった年」
これまでAIは、「資金や人材に余力のある企業」や「ITに強い会社」が先行して使うもの、という印象があったかもしれません。
しかし2025年は、AIはもはや一部の先進企業だけの話ではなく、中小企業の現場業務に直結する存在となりました。
- 事務作業に人員を投入せずとも業務を回せる
- 若手に任せていた単純作業が不要になる
- ベテランの経験を言語化・共有できる
こうした変化を実感されている経営者の方も多いのではないでしょうか。
実際、海外ではGoogle(Alphabet)が高収益を維持しながら人員削減を続けています。
日本でも三菱UFJ銀行は、AIを前提とした業務改革を進め、店舗削減や事務の自動化を背景に人員を減らしています。
ここで重要なのは、「不況だから人を減らしているのではない」という点です。
「これだけの人数でこの業務をこなす必要が本当にあるのか」という問いに、AIが答えを突きつけてきた結果なのです。
「業務設計」がAI活用の成否を分ける
この流れは、大企業だけの話ではありません。
中小企業においても、「人を採らない」「採れない」という状況の中で、業務そのものをAI前提で再設計する企業が現れ始めています。
たとえば、日立ソリューションズでは、社内からAI活用のアイデアを集め、それをもとに業務プロセス全体の見直しにつなげました。
その結果、審査レポート作成にかかる時間を約60%削減したとされています。
これは単に「AIツールを導入した」という話ではありません。「業務の流れそのものを見直し変えた」という点がポイントです。
AI時代に人が担うべき仕事とは

一方で、誤解してはいけないのは「AIがあるから人はいらない」という話ではない、ということです。
私は社員とAIについて話す際、必ずこう伝えています。
「AIは人が使う道具であり、人がAIに使われてはいけない」
今後、OJTの現場では、先輩の仕事を見るよりも、AIから学ぶ場面が増えていくでしょう。
その代わり、人に求められる役割は明確になります。
- 判断する
- 優先順位を決める
- 責任を持つ
こうした仕事は、AIには任せられません。
評価の軸も、「どれだけ忙しかったか」ではなく、「AIを活用して、どれだけ合理的な判断ができたか」へと変わっていくはずです。
作業自体は、今後ますますAIが担うようになるでしょう。
しかし、「何を実現したい会社なのか」「どこに向かうのか」は、経営者と社員の価値観そのものです。
正しい問いを立てなければ、AIは正しい答えを返しません。そして、出てきた答えをどう使うかを決めるのも、人です。
2025年は「AIがある前提で、中小企業経営をどう組み立て直すか」というテーマが、本格的に動き出した一年だったと感じています。
ぜひ2026年は、
- 人を増やす前に、仕事を見直す
- 属人化する前に、仕組みに落とす
- 忙しさではなく、判断の質を見る
こうした視点で、AIを活用した構造改革に取り組んでみてはいかがでしょうか。
一年間、アタックスグループが総力を挙げてお届けしてきたコラムにお付き合いいただき、誠にありがとうございました。
来年も、経営の現場で役立ち、考えるきっかけとなるような有益な情報をお届けしてまいります。
筆者紹介

- アタックスグループ 代表パートナー 公認会計士・税理士 林 公一
- KPMG NewYork、KPMG Corporate Finance株式会社を経て、アタックスに参画。KPMG勤務時代には、年間20社程度の日系米国子会社の監査を担当、また、数多くの事業評価、株式公開業務、M&A業務に携わる。現在は、事業評価や事前(買収)調査を担当すると同時に、株式公開プロジェクトにも参画。また、金融機関等の依頼により、多数の企業再生計画策定をサポートしている。過去の経験を活かしながら、中堅中小企業のよき相談相手として、事業承継支援やクライアント企業の後継者・幹部教育も数多く手がける。
