デジタル・AIの活用は、大企業のみならず中堅・中小企業にとっても重要な経営課題の一つです。
今後、深刻化が見込まれる人材不足への対応や、著しい環境変化への対応力を強化するためには、この課題を避けて通ることはできません。
本稿では、最新の「2025年版中小企業白書・小規模企業白書(中小企業庁)」や「令和7年版情報通信白書(総務省)」を読み解き、中堅・中小企業がデジタル技術やAIとどのように向き合うべきか、そのヒントを探ります。
デジタル化・DXの取り組み状況
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、「顧客視点で新たな価値を創出していくために、ビジネスモデルや企業文化の変革に取り組むこと」を指します。
中小企業基盤整備機構が実施した『2024年 中小企業のDX推進に関する調査』によると、2023年の前回調査と比較して、次のような結果が示されました。
「理解している」企業はほぼ半数で、前回と横ばい
DXの必要性
「必要と感じる」企業は約7割で、こちらも前回と横ばい
DXに期待する成果・効果(上位)
1.コスト削減、生産性の向上(38.8%)
2.業務の自動化、効率化(38.6%)
3.データの一元化、データに基づく意思決定(26.2%)
4.働き方改革、多様な働き方の実現(23.1%)
一方、実際に行われている具体的な取り組みを見ると、「文書の電子化・ペーパーレス化」が最も高いという状況です。
「DXの成果が出ている」と回答した企業は8割に達していますが、その多くは依然としてアナログ業務のデジタル化に留まっており、DXによる経営改革の実現には、いまだ多くの企業が道半ばにあると言えるでしょう。
また、DX推進における主な課題としては、「IT・DX推進に関わる人材が足りない」が最も多く、解決の見通しについて悲観的な見方を示す企業が半数を占めています。
AIの活用状況
続いて、AIの活用状況です。日々の報道や、日常の利用を通じて、AIの急速な進化を実感する機会は少なくないでしょう。
チャット型AIの回答精度が向上するだけでなく、新たな技術も次々と登場しており、今後のビジネスに大きな変革をもたらす可能性が高い分野と言えます。
しかし、『令和7年版情報通信白書』によると、日本企業における生成AIの活用状況には課題が見られます。
AI活用に関する方針を策定している企業の割合は、2024年度で49.7%となり、2023年度(42.7%)から微増したものの、国際的には依然として低水準にあります。
(参考:米国90.6%、ドイツ90.3%、中国95.8%)
国内企業を規模別に見ると、中小企業の約半数が「方針を明確に定めていない」と回答しており、大企業と比較して対応が遅れている現状がうかがえます。
さらに、日本の業務における生成AIの利用率は約半数に留まり、こちらも他国に比べて低い水準となっています。
導入への懸念点としては、「効果的な活用方法がわからない」に次いで、セキュリティリスクやランニングコストが挙げられていました。
デジタル・AI活用のヒント
それでは、デジタル化やDX、AI活用をどのように推進していけば良いのでしょうか。
自社の現状を把握し、今後の進め方を考える上で、『2025年版中小企業白書』に記載されている「デジタルの取組段階」が参考になります。
紙や口頭による業務が中心で、デジタル化が図られていない状態
段階2
アナログな業務環境からデジタルツールの利用へ移行している状態
(例:メール利用、会計ソフト導入など)
段階3
デジタル化による業務効率化やデータ分析に取り組んでいる状態
(例:顧客・在庫情報をシステム管理し、業務フローを見直している)
段階4
デジタル技術でビジネスモデルを変革し、競争力強化に取り組んでいる状態
(例:蓄積データを活用し、販路拡大や新商品開発を実践している)
貴社は今、どの段階にいらっしゃいますか?
さらに、中小企業白書の事例で紹介された「身の丈DX」という姿勢もヒントになります。
この考え方は、全ての課題を一度に解決するのではなく、社内業務のボトルネックを見つけ出し、必要最小限の投資でできるところから着実に取り組むというものです。
これにより、作業負担を削減しつつ、着実に業務改善を進めることが可能となります。
▼2025年版 中小企業白書(HTML版) 第5節 デジタル化・DX | 中小企業庁
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2025/chusho/b1_1_5.html
デジタル・AI活用は、今や全ての中小企業にとって避けて通れない経営課題です。
まずは自社の現状を客観的に把握し、「できることから着実に始める」。
それが、今後の成長につながる確かな第一歩です。
筆者紹介
- 株式会社アタックス・エッジ・コンサルティング 取締役 公認会計士 新川 真代
- 中小企業にて経理、中堅企業向けの監査法人にて監査業務を経験した後、2015年にアタックスグループに参画。株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティングにて、中堅中小企業向けに企業再生・経営支援等の経営コンサルティングを従事。現在は、株式会社アタックス・エッジ・コンサルティングにて、会計専門家としての知見・経験を生かしながら、会計専門家の業務効率化・中堅中小企業の経営に資する情報提供のためのシステムを開発・運用に取り組んでいる。