日本ロック~研究開発を行わずして社員を幸せにはできない

経営

かつて、わが国の3大モノづくり地域といわれた浜松地域のモノづくり産業の衰退が著しく進行している。例えば、このことを工業統計で見ると、20年前、浜松市には4,200もの工場数があったが、直近の統計を見ると2,100ヶ所と、半減化してしまっている。

もとよりその最大の要因は、浜松地域のモノづくりの中小企業の大半が、大手組み立て型産業の下請的モノづくりをしているからである。

周知のように、組み立て型産業の多くは、経済社会のボーダレス化・グローバル化の中で、生産拠点の海外現地化や製品の逆輸入を拡大させている。さらに言えば、国際的なコスト競争に打ち勝つために、製品を構成する部品の共通化や一体化による部品減らしを進め、その部品点数はかつての半減化してしまっている。加えて言えば、組み立て型産業は系列を超えた取引を一層加速・拡大させている。

こうした状況を直視すれば、わが国の下請タイプの企業が淘汰選別され激減していくのは残念ながら当然と言えるのである。

こうした中、浜松市で異彩を放っているのが、「株式会社日本ロック」という独立系のモノづくり中小企業である。当社の主事業は、スイッチ等電装品で、社員数は170名、売上高は62億円である。販売先は国内外の自動車や農機具メーカーで、現在は輸出60%、国内40%である。

当社の創業は1980年、創業者は現会長である米田良正氏である。米田氏は共同創業し、地域の中堅企業にまで成長発展させた企業を仲間に譲り、50歳の時、理想の会社を創りたいと、再び日本ロックを創業している。

下請型モノづくり経営を嫌い、創業以来一貫して、資金面や人財面から研究開発に注力してきた。この結果、この35年間で、当社が出願登録した特許や実用新案等は、100件以上、つまり毎年3~5件の特許等を申請し続けている。こうした姿勢は業界有数となった今日でも貫かれており、研究開発費は毎年、売上高の10%程度、170名の社員の15%である25名は研究開発要員である。

こうした研究開発重視の経営姿勢により、業績もすこぶる好調で、過去10年間で見ても、社員の年間賞与は5ヶ月以上、その売上高対経常利益率も10%前後を持続している。より驚かされるのは、賃金で、単純組み立てをしているパートの女性の時給は、地域の業界平均が800円前後というのに、当社ではなんと1,200円である。

先般、下請型モノづくり産業の中小企業経営者等、約20名と、当社を久方ぶりに訪問したが、視察した経営者の多くは「問題は景気ではなく自分の経営の考え方・進め方」にあったと反省しきりであった。

アタックスグループでは、1社でも多くの「強くて愛される会社」を増やすことを目指し、毎月、優良企業の視察ツアーを開催しています。
視察ツアーの詳細は、こちらをご覧ください。

坂本光司の快進撃企業レポート一覧へ

筆者紹介

坂本光司

アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長  坂本 光司(さかもとこうじ)
1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。

タイトルとURLをコピーしました