なぜ会計不正は起きるのか~ニデック問題から考える経営の暴走

なぜ会計不正は起きるのか~ニデック問題から考える経営の暴走 経営

ニデックの会計不正問題の概要

かねてより報じられていたニデック(旧日本電産)の会計不正問題について、2026年4月17日、第三者委員会による調査報告書(最終報告)が公表されました。

参考:ニデック株式会社 ニュースリリース
「第三者委員会の調査報告書(最終報告)の受領 及び当社の対応に関するお知らせ」

調査報告書によると、過年度決算の訂正金額は、少なくとも累計▲1,607億円にのぼるとされており、会計不正の背景として、「過度な業績プレッシャー(永守氏の経営理念の破綻)」や「永守重信氏の絶対性」が指摘されています。

また、報告書には「短期的な利益最優先の意識」や「目標未達を許容しない企業風土が醸成された」といった記載も見られました。

こうした内容を目にすると、2015年に発覚した東芝の会計不正問題を思い出す方も多いのではないでしょうか。

当時も、「チャレンジ」と称された過剰な業績目標が大きな批判を集めました。

上場企業における会計不正は、株価下落によって投資家へ損失を与えるだけでなく、企業や事業そのものの存続にも大きな影響を及ぼします。

さらに、従業員や取引先、その家族にまで影響が広がる点で、社会的インパクトは極めて大きい問題です。

永守氏は、名経営者・カリスマ経営者として語られたことも多く、私自身も過去に著書を購入したことがありました。

そのため、今回のように永守氏の「関与」が指摘される形で会計不正が報じられたことには、信じがたい思いがあります。

今回の問題を通じて、経営における「アクセル」と「ブレーキ」の重要性について、改めて考えさせられました。

「アクセル」としてのストレッチ目標

ニデックや東芝に限らず、現状の能力を超える高い目標を「ストレッチ目標」として設定することは、従業員の能力を引き出す手法として広く用いられています。

実際に、予算や中期経営計画の中へストレッチを組み込む企業も少なくありません。これは、いわば経営における「アクセル」としての仕組みと言えるのではないでしょうか。

支援先のお客様とお話する中でも、経営者や役員の方から、このようなお話を伺うことも少なくありません。

「創業期や成長期の大きな困難を乗り越えた経験が今に繋がっている」
「経営者や上司から課せられた高い目標や、厳しい課題を乗り越えたことで、大きく成長できた」

一方で、今回のニデックのケースでは、達成不可能ともいえる水準の目標が設定され、さらに目標未達が許容されない企業風土が存在したことで、会計不正が頻発したとされています。

高い目標設定そのものは、会社や組織、人材の成長を促すうえで必要となる場面も多いと考えられますが、目標未達が一切許容されない状況になると、会計不正という「暴走」につながる危険性があることを、改めて考えさせられます。

「アクセル」の具体的な形は、会社によって様々です。

例えば創業期であれば、創業者の個人的能力がアクセルになることもありますし、人事評価や報酬制度と連動した営業施策、部門別採算制度、マーケティング戦略なども、組織を前進させるアクセルとして機能すると考えられます。

不正等を防ぐ「ブレーキ」の必要性

不正等を防ぐ「ブレーキ」の必要

ニデックと同じく京都に本社を置く会社として、京セラがあります。

京セラは、稲盛和夫氏が創業した企業として知られていますが、永守氏は一回り年上である稲盛氏を強く意識していたとも言われています。

京セラは、「アメーバ経営」を採用していることで有名です。

アメーバ経営とは、組織を小集団(アメーバ)に細分化し、各部門を独立採算で運営することで、「全員参加経営」を実現する経営手法です。

稲盛氏は著書「アメーバ経営」の中で、このように述べています。

「アメーバ経営を行っている当社でさえ、アメーバリーダーが自部門の経営を実態より良く見せようとして、生産計上をごまかすなどの不正が起こることがある」

この記述からは、不正というものが決して特別な環境だけで起こるのではなく、組織経営の中に常に潜み得るものであることを改めて考えさせられます。

また、稲盛氏は別のインタビューで、「アメーバ経営」という「アクセル」に対し、「フィロソフィ」という「ブレーキ」を社員に用意したと語っています。

稲盛氏の「フィロソフィ」については、やや「宗教的」と感じる人もいるようですが、ここでいうフィロソフィとは単なる理念や精神論ではなく、企業活動において「何を良しとし、何をしてはいけないか」を判断するための基準、すなわち行動規範や価値観を意味しています。

稲盛氏は次のように述べています。

「人間は数字の魔力には勝てない。目の前に数字をぶら下げれば、どこまでも突き進んでいってしまう。
部門別採算制は、そうした人間の本性を解き放ってしまう。それでは組織は長続きしない。
だからこそ、その前提として『フィロソフィ』が必要である」

経営における「理念」や「価値観」は、内部統制の専門用語では「統制環境」と呼ばれます。これは、従業員のコンプライアンス意識を高め、暴走を自制するための土台となるものです。

また、「ブレーキ」として機能するのは「理念」だけではありません。

職務分掌や相互チェック、承認・決裁制度といった仕組みの他、内部監査、社外取締役、監査役などによるガバナンス体制も重要な役割を担っています。

場合によっては、顧問弁護士や税理士、あるいは経営参謀のような立場の存在が、「外部のブレーキ」として機能することもあるでしょう。

会計不祥事は、「ブレーキ」が十分に機能しなかった結果として生じる典型例と言えます。

しかし一方で、管理部門やルールばかりが肥大化し、変化を避けるあまり外部環境の変化に対応できなくなれば、今度は「アクセル」の推進力が弱まり、会社そのものが前に進めなくなってしまいます。

言葉にすると月並みに聞こえるかもしれませんが、様々な企業事例に触れてみると、長期的に成長を続けている企業ほど、「アクセル」と「ブレーキ」のバランスが取れているように感じます。

これは、中堅・中小企業においても同様でしょう。むしろ、上場企業に比べると、中堅・中小企業では「ブレーキ」の機能が弱くなりやすいケースも少なくありません。

自社において、「アクセル」と「ブレーキ」がバランスよく備わっているかを、定期的に自己点検してみることは、健全な経営を続けるうえで重要ではないでしょうか。

もっとも、自社を客観的に見ることは簡単ではありません。そのため、経験豊富な第三者の視点を取り入れながら、確認していくことも有効な方法の一つだと考えられます。

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筆者紹介

尾崎貴章

株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 公認会計士 尾崎貴章
監査法人、中堅中小企業をクライアントとするコンサルティング会社を経てアタックスに入社。監査法人では上場企業から中堅企業までの監査業務を中心に経験。中堅中小企業の再生業務に使命感を持ち、現在は中堅中小企業の財務調査・事業調査、事業計画策定支援、モニタリング業務を中心としたコンサルティング業務に従事している。

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