地域限定のかかりつけネットワーク -株式会社サンキュードラッグ

経営

西浦道明のメルマガ 2020年5月

2014年から、当メルマガでは自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。

連載69回目の今回は、福岡県北九州市でドラッグストア・調剤薬局を経営する株式会社サンキュードラッグ(以下、S社)の池クジラぶりを見ていきたい。

S社は、1956年現社長の平野健二氏(以下、H氏)の両親が、門司に薬局を開設したのが始まり。

その後、1792年に北九州初の本格的ドラッグストアを開店するなど、順調に拡大していった。

しかし、1980年代に入ると、北九州を支えていた鉄鋼業が斜陽化し、門司は人口減少と高齢化が急速に進み、商店街はさびれ、大手スーパーも撤退するなど衰退していく。

そのような中、人口の多い福岡に出店するが、わずか3年で撤退を余儀なくされた。

この失敗経験がきっかけとなり、H氏は、エリアを拡大せず、お客様を地元の高齢者層に絞り、彼らにとってなくてはならない「かかりつけネットワーク」に徹することにした。

言い換えれば、真の地域密着型経営にシフトしたのだ。

今現在、福岡県北九州市と山口県下関市を中心に、ドラッグストア43店(内、調剤併設28店)、調剤薬局30店、合計73店舗を展開し、売上高240億円超(2020年3月期)に成長している。

では、「地域のかかりつけネットワーク」とはどのようなものだろうか。

一つ目の特徴は、超高密度出店である。

S社の店舗の出店基準は半径500mであり、1kmごとに1店舗が展開されている。

それは、H氏が「北九州地区は高齢者が特に多く暮らす街」「高齢者が10分以内で毎日気軽に歩いて来れるお店にしたい」と考えたからだ。

二つ目は、高齢者が必要なものを必要な量だけ買える場所である。

薬以外にも食品から日用品まで何でも揃う店づくりとした。

杖やグランドゴルフのクラブまで、高齢者に嬉しい商品を取り揃えている。

三つ目は、敷地内に内科、耳鼻科・小児科、産婦人科のクリニックをはじめ、あらゆる診療科を50軒。さらに保育園や高齢者住宅等を誘致して医療モール化を進めた。

さらに調剤薬局を併設することで、ドラッグストアと相互に送客し合っている。

四つ目はデータ活用。

「誰が」「何を」「何と一緒に」「何回購入したか」等が分かる購買記録(ID-POS)を活用して、1人ひとりの嗜好や購買履歴を分析し、お客様が潜在的に求めているものを推測し、「あなたにピッタリのものがここにあります」という品揃えを進めてきた。

五つ目は、様々なメーカーに集まってもらい、お客様がまだ気づいていない商品の新たな価値とニーズを掘り起こす「潜在需要発掘研究会」を月に一度のペースで開催。

お客様が気づいていない物をこちらが見つけ、的確にアドバイスすることで顧客満足度を高めている。

さらに六つ目は、調剤薬局全店で薬歴データを共有し、一人のお客様の薬の飲み合わせから重複投薬のチェックまで行っている。

言い換えれば、複数店舗で行う1人の高齢者の万全な健康サポート体制である。

複数の医療施設にかかっても問題ない。超高密度出店だからこそできるのだ。

S社は、地元のお客様に徹底的に寄り添い、お客様自身がまだ気づいていない、潜在的に求めているニーズまで掘り起こし、その商品・サービスを提供し続けることで高い評価を得てきた。

S社は、「北九州・下関地域限定のかかりつけネットワーク」という市場(池)のクジラである。

  
  
アタックスグループでは、1社でも多くの「強くて愛される会社」を増やすことを目指し、毎月、優良企業の視察ツアーを開催しています。
視察ツアーの詳細は、こちらをご覧ください。

西浦道明のメルマガバックナンバー 一覧へ

筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
タイトルとURLをコピーしました