高精度な業務用アルコール測定システム -東海電子株式会社

経営

西浦道明のメルマガ 2017年6月

2014年から当メルマガでは、自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、 高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。

連載34回目の今回は、静岡県富士市で業務用アルコールチェッカー、インターロック、IT点呼システムなどの開発・製造・販売を行う東海電子株式会社(以下、T社)の池クジラぶりを見ていきたい。

T社は1979年に、現社長の杉本一成氏(以下、S氏)が創業した。

T社はもともと大手電機メーカーの下請工場としてデジタル時計や小型電子機器の基盤アセンブリ、検査、組立加工を行っていた。

しかし事業構造が不安定で、景気変動や海外工場移転で大きく影響を受けたため、T社も、やむを得ず何度か社員のリストラに踏み切った。

S氏にとって、毎日が苦渋の決断だった。

下請けで蓄えた色々な技術を活用して何とか脱下請を図りたいと悪戦苦闘するも、製品に至るものはなかなか生まれなかった。

そんなT社に、大企業で半導体設計から高速カラープリンタの開発までを経験した技術者の都築伴三氏(以下、T氏)が入社してきた。

これが、T社の自社製品開発体制を一気に進展させるきっかけとなった。

あるとき、TVのニュース番組で、飲酒による交通事故が多発し、被害者はもとよりドライバーの家族までもが、突然の悲劇に見舞われるケースが社会的問題になっていることをS氏は知った。

「アルコール濃度を測る機械がもっとコンパクトになれば需要があるのでは?」と閃いたS氏は、早速T氏に製作の指示をした。

既に世の中には数多くのアルコール測定器が出回っていたことをS氏は知らなかった。

一方でT氏もそのことを伝えず、鉄道・バス・タクシーなど業務用のマーケットなら勝負できると考え、開発に挑んだ。

これがT社の大きな転機となり、2003年、国内で初めて「業務用アルコール測定器」が完成した。

運輸関連企業にとって飲酒運転事故は致命傷となるため、正確な測定・記録・不正防止の3点を、T社は「業務用アルコール測定器」造りの基本と考えた。

これまでの測定器は、精度は低いが値段が数千円だったことから、20万円以上と高額なT社の測定システムを、最初、お客様は、高いと感じた。

しかし、導入後しばらくすると、こんなに役に立つ製品はないという評価に変わった。

測定システムの精度の高さが、夜遅くまで酒を飲むドライバーを許さなかったからだ。

夜遅い時間の飲酒量が減れば、睡眠時間を確保でき、健康状態も改善され、安全運行が維持される。

T社のアルコール測定システムは、2011年4月から運送事業者に点呼時のアルコールチェックが義務化されたこともあり、多くの運送事業者に利用され、その数は全国20,000社以上の法人、50,000以上の事業所と、業務用分野でトップシェアになっている。

T社はこれまで世の中になかった、飲酒運転ゼロ社会に貢献できる、高精度な業務用アルコール測定システムという市場(池)を創りあげ、その池クジラとなっている。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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