官民連携によるデジタル変革の最前線~インボイス電子化の動き②~

経営

電子インボイス推進協議会(以下EIPA)は2021年7月1日、平井デジタル改革担当大臣に対し、電子インボイスの標準仕様策定についての現状報告を行ったと公表しました。

これまでの経緯

詳細はこちら「官民連携によるデジタル変革の最前線~インボイス電子化の動き~」(前回記事)

  • 2023年10月からインボイス制度がスタートする予定。しかし、このままでは業務が煩雑化してしまう懸念。
  • そこで、ボーンデジタル研究会が2020年6月25日に提言を発表。提言の中で、短期的に取り組むべき領域としては、電子インボイスの仕組みの構築と言及。
  • ボーンデジタル研究会は実現に向け、下部組織としてEIPAを立ち上げ。EIPAは2020年12月15日、電子インボイスの標準規格にPeppol(ペポル)を採用すると発表。内閣官房IT総合戦略室やEIPAは、2021年6月末を目途に日本版Peppolの仕様ver.1を策定、2022年10月からシステムの運用を開始するスケジュール案を2020年12月に公表。
    ※電子インボイスに係る取組状況について
  • EIPAは平井大臣に現状を報告。(←冒頭の記述)

国際規格Peppolとは

Peppolとは、受発注や請求にかかる電子文書をネットワーク上でやり取りするための「文書仕様」「ネットワーク」「運用ルール」の規格で、国際的な非営利組織であるOPEN PEPPOLが管理しているグローバルな標準規格です。

欧州連合(EU)やシンガポールなど30カ国以上で採用されています。

日本版Peppolの必要性と仕様の方向性

そもそもPeppolは国際規格ですので、そのままでは日本の法令や商習慣に対応することができません。

そのため、Peppolをベースとし、我が国特有の仕様を拡張した「日本版Peppol」を策定する必要があります。

そこでEIPAは、国際標準と日本の法令や商習慣とのギャップを分析し、課題や今後の方向性をとりまとめた資料「日本版Peppol実現に向けた業務要件」を政府へ提出しました。

※日本版Peppol実現に向けた業務要件

ギャップの一例としては、請求に関する商慣行です。

Peppolでは、一つの納品書をもとに一つの請求書が発行されるケース(都度型)がサポートされていますが、日本では複数の納品書をもとに、20日締め・月末締めなど所定のタイミングで合算して請求書が発行されるケース(合算型)も多く散見されます。

デジタルを前提に考えると、経営のリアルタイム化の観点から、請求業務は合算型から都度型に変化していくべきです。

しかし、電子インボイスが2023年10月時点で一般に広く利用される状態になるためには、現状の業務プロセスのままでも電子インボイスを利用できるようにする必要があります。

このような背景から、日本版Peppolでは合算型についてもサポートすべきと言及しています。

また、国際規格では「税抜」表記のみに対し、日本の消費税では「税抜」「税込」表記が混在している点も、大きなギャップとなっています。

EIPAは、日本版Peppolの稼働時点においては、税抜表記のみの状態を許容していますが、小売取引において総額表示が義務付けられていることもあり、将来的には税込表記もサポートできるようにすることが望ましいと言及しています。

現時点で日本版Peppolの仕様について公表されていませんが、日本におけるPeppolの認証管理機関であるデジタル庁の2021年9月の発足にあわせて、正式な発表があるものと予想されています。

電子インボイス普及によるベネフィットと、実現に向けた強力な後押し

電子インボイスであれば、請求以降をデジタルで一気通貫により処理をさせる(請求データをクラウド会計システムや銀行データに連携し、自動化させる)ことで、
・発行者側での請求書発行業務~入金・消込業務
・受領者側での請求書管理業務~支払・消込業務
までを大幅に効率化することが可能になります。

全国銀行協会(以下全銀協)は2021年1月、EIPAに特別会員として加わりました。

請求データと送金データの連携方法を検討するためです。

EIPAには国内のほとんどの会計ソフトベンダーが参画しており、日本版Peppolのシステム運用の開始予定時期である2022年10月までに、全銀EDIシステム(以下ZEDI)と会計ソフトの接続方法の策定を目指します。

さらに、平井大臣は全銀協との会談で、インボイス制度とZEDIとの連携を要望しました。

消込自動化に関しては既に実証実験もスタートしています。

具体的には、売手が提供した請求IDを買手においても引き継ぎ、振込・入金情報とともに売手に提供する仕組みの構築です。

それにより、売手は請求データごとの入金消込(買手はその逆)を自動化することが可能となります。

このように、請求以降の業務プロセスについて、デジタルによる一気通貫が、着実に実現に向けて前進しています。

最後に

来年2022年は、電子帳簿保存法・スキャナ保存法の緩和、そして日本版Peppolのシステムの運用開始。翌年2023年は、インボイス制度の導入。

大きな制度改正が立て続けに予定されていますが、いずれもクラウド会計ソフトの利用を意識した改正となっています。

法令改正に最低限対応することで終わらせるだけでなく、これを機会と捉え、業務フローをデジタルを前提として見直し、大幅な効率化の実現まで考慮されることを推奨します。

今後もこちらの動向は引き続きご注目下さい。

筆者紹介

株式会社アタックス・エッジ・コンサルティング 代表取締役 公認会計士 酒井悟史

株式会社アタックス・エッジ・コンサルティング 代表取締役 公認会計士 酒井 悟史
慶應義塾大学経済学部卒。2014年アタックス税理士法人に参画し、主に上場中堅企業の法人税務業務に従事。2019年株式会社アタックス・エッジ・コンサルティングの代表取締役に就任。現在はクラウド会計や開発システムの導入を通じ、中堅中小企業および会計事務所のイノベーション促進に取り組んでいる。
酒井悟史の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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