海外事例に見るインボイス電子化の影響 ~電子化するとどうなる?~

経営

インボイス電子化の経緯

来秋からインボイス制度が導入されることや、それに先立って官民連携でインボイス電子化の動きがあることは周知の事実です。
改めてこれまでの経緯を振り返ります。

  • 2023年10月からインボイス制度がスタートする予定。
  • →しかし、このままでは業務が煩雑化してしまう懸念。

  • そこで、ボーンデジタル研究会が2020年6月25日に提言を発表。
  • →提言の中で、短期的に取り組むべき領域として、電子インボイスの仕組みの構築と言及。

  • ボーンデジタル研究会は実現に向け、下部組織として電子インボイス推進協議会(以下EIPA)を立ち上げ。
  • →EIPAは2020年12月15日、電子インボイスの標準規格にPeppol(ペポル)を採用すると発表。
    →内閣官房IT総合戦略室やEIPAは、2021年6月末を目途に日本版Peppolの仕様ver.1を策定し、2022年秋からシステムの運用を開始するスケジュール案を2020年12月に公表。
    ※電子インボイスに係る取組状況について

  • EIPAは2021年6月28日、国際規格と日本の法令・商習慣とのギャップを分析し、課題や今後の方向性をとりまとめた資料「日本版Peppol実現に向けた業務要件」を政府へ提出。
  • ※日本版Peppol実現に向けた業務要件

日本が政府調達を決定したこのPeppolですが、ヨーロッパをはじめアメリカ、オーストラリア、東南アジアではシンガポールで既に採用されています。

インボイスが電子化されるとどうなるのか?今回はその先例であるシンガポールの事例をご紹介しながら、ポイントを確認して参りたいと思います。

目指すべきは電子化ではなくデジタル化

まず事例紹介に入る前に、我が国の目指すべき方向性について、皆様と認識のすり合わせです。

先日の6月1日、EIPAは「電子インボイス推進協議会」から、「デジタルインボイス推進協議会」へと名称を変更しました。

プレスリリースにおいて、名称変更の趣旨が示されています。

日本全体の商取引において、単純に紙を「電子化」(Digitization) するだけではなく、デジタルを前提とし業務のあり方も見直す「デジタル化」(Digitalization)を進めるべきと私たちは考えています。
このたび、その意思をより明確にするために、会の名称を変更するに至りました。
プレスリリース

今回デジタル庁が主導して推進しているPeppolをベースとしたインボイスのデジタル化は、標準化・構造化されたデータのやり取りができる点に特徴があります。

つまり、標準化されているからこそ、取引の相手方やシステムの状況を問わずにやり取りが可能となり、構造化されているからこそ、後工程業務(決済・入出金消込・記帳)へのデータ転用によって、業務効率化を実現するのです。

請求書をPDFにするだけでは、狙ったプロセス変革はできません。

その意味で、単純に紙を電子化する局所的な「デジタイゼーション」と、後工程を含むプロセス全域的な「デジタライゼーション」を明確に区別するために、あえてEIPAは「デジタルインボイス」という呼称を強調しているのです。

※過去記事:中小企業経営を「ハック」する ~最先端から考える中小企業のIT戦略(3)
デジタル変革のステップ(デジタイゼーション→デジタライゼーション→デジタルトランスフォーメーション)について説明しています。

シンガポールの事例

ここからシンガポールの事例紹介です。

Invoice Nowとは

はじめに「Invoice Now」とは、シンガポールのオフィシャルな電子インボイスの制度です。

IMDA(情報通信メディア開発庁)を認証機関として、企業間の負担軽減やペーパーレス化を目的に2019年から運用を開始しています。

なお、制度対応は義務ではなく任意。また、データの受渡は4コーナーモデルにて運用。
Peppol公式web 概要

4コーナーモデルとは、売り手(1)は、自らのアクセスポイント(2)を通じ、Peppolネットワークに接続し、買い手のアクセスポイント(3)にインボイスデータセットを送信し、それが買い手(4)に届く仕組みです。
※(1)~(4)の番号はPeppol公式web中の図に対応

売り手・買い手共に、アクセスポイントとしてサービスを提供する認定サービスプロバイダーと契約し(Peppol対応の請求管理システムツールを通じ)、Peppolネットワークに接続してやりとりをすることになっています。

データは標準化されているため、取引の相手方が他ベンダーのツールを利用していたとしても、例えるならば別キャリア同士でもメールの送受信ができるように、円滑に請求データの受渡が可能です。
シンガポールIMDA公式web 実際のUI(P14~17参照)

Peppol Directoryとは

Peppol Directoryは、Invoice Nowに登録している事業者のデータベースです。

Peppol Directory公式webは公開されており、①自社の取引先がどの程度インボイス電子化に対応できているかの状況確認や、②取引先がどのようなPeppolフォーマットのやりとりが可能か等、検索により確かめることができます。

日本では、取引の相手方がインボイス制度の登録事業者か否かが確認できるよう、こちらに登録事業者情報が公表されています。

今後は、登録事業者情報に加えて、電子インボイスへの対応状況についても、おそらく何かしらの方法で公開されるものと思われます。

Invoice Nowのベネフィット

シンガポールIMDAのパンフレット(P2右上参照)では、4つのベネフィットが掲げられています。

①Reduce Cost(コストの削減)
②Green Friendly(環境への配慮)
③Transact Internationally(国際間送受信の実現)
④Get Paid Faster(代金回収の迅速化)

①②は、ペーパーレス、その結果として、印刷・郵送・保管コストの削減など、イメージしやすいかと思います。

また③は、Peppolが国際標準規格である点で、ボーダーレス実現に寄与します。

最後に④ですが、シンガポールIMDA公式webによると、請求~回収のサイクル期間を約22日短縮できるとのこと。
IMDA公式webのissue-2(P4下部参照)


サイクルの短縮要因として、4つの効果に言及しています。

(1) FAST BILLING、(2) CLEAN DATA
構造化されたデータの後工程転用により、請求書作成時の転記作業や確認作業が削減される。

(3) AUTOMATED PROCESSINGS
リスクに応じた承認プロセスの自動化を実現できる。

(4) E-PAYMENT
前工程で正確性が担保された情報を転用するため、 確認作業や従来の個々の支払作業を削減できる。

まとめ

EIPAには、インボイス関連の多数のベンダーの他、全国銀行協会、クラウド会計ベンダーが参画しています。

つまり、請求データ・全銀EDI・クラウド会計のデータを一気通貫させることで、請求~決済~消込~記帳の自動化実現を狙っています。

目指している方向性は、電子化ではなくデジタル化であり、局所的な変革ではなくプロセス全域的な変革なのです。

インボイスが電子化されるとどうなるのか?

データの標準化・構造化により、個々の業務プロセスの垣根が取り払われ、途中工程の自動化に大きく寄与することでしょう。

(参考)過去記事
官民連携によるデジタル変革の最前線 ~インボイス電子化の動き~
官民連携によるデジタル変革の最前線 ~インボイス電子化の動き②~

筆者紹介

株式会社アタックス・エッジ・コンサルティング 代表取締役 公認会計士 酒井悟史

株式会社アタックス・エッジ・コンサルティング 代表取締役 公認会計士 酒井 悟史
慶應義塾大学経済学部卒。2014年アタックス税理士法人に参画し、主に上場中堅企業の法人税務業務に従事。2019年株式会社アタックス・エッジ・コンサルティングの代表取締役に就任。現在はクラウド会計や開発システムの導入を通じ、中堅中小企業および会計事務所のイノベーション促進に取り組んでいる。
酒井悟史の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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