一芸に秀でた中小工場の強み。差別化に結びつく元とは?

経営

数ヶ月前、当社の顧問先・製造業K社の工場を視察しました。K社は典型的な中小企業で、工場は現場・事務所総人員22名といった規模の会社です。

多少専門的な説明になりますが、 K社は特殊鋼をセンターレスグラインダーという加工機を使って研磨加工する専門業者。

特に超精密研磨加工を得意としており、腕時計、カメラ、医療機器、自動車といった分野で最終使用される精密部品の中間製品を製造しています。

納入先は軒並み日本を代表する大手メーカーであり、大手メーカーは当社の精密加工技術がなければ製品が作れないのです。K社工場長から事務所で製造工程の説明を受けた後、現場を案内してもらいました。

意外だったのは最新鋭の自動機が設置されている訳ではなく、長年使用している加工機(センターレスグラインダー)を熟練技術者が多台持ちで作業をしていたこと。

工場長の自慢は、自分自身も含めミクロン単位の研磨の違いが分かる技術者集団であること、機械の異常を音で判断できること、多少の不具合であれば自分たちで機械が直せることだそうです。

筆者の感想で言えば、匠の技術者がK社を支えているということでした。経験年数を尋ねてみると、40年、38年、16年といったベテランばかり。

またK社は精密加工の品質を保持するため、出荷前に全品検査を行っているが検査工程を担当しているのが、数名のベテランの女性作業者、彼女達もまたK社にとってなくてはならない人材です。

K社の社長も
「当社は会社を大きくするつもりはない。 先代が創業した精密センターレス研磨加工技術の専業として、これからも事業を続けていきたい。超精密加工で困ったら当社に頼めと大手メーカーから指名されるのが誇りである。」といっておられました。

今K社の経営課題は2つです。

一つ目は納入メーカーの海外進出に伴う、海外加工業者との競争。大手メーカーの現地調達化に対する対策がこれからの課題です。これには高度の研磨加工技術で差別化を図り、大手メーカーに「この品質、精度を出すには材料はK社に頼むしかない」と言わせること。
現に、最近一度は価格の問題から中国メーカーへ発注していた取引先が、品質不良に手を焼きK社へ戻ってきたそうです。

二つ目は、現場の技術者の高齢化、リタイア後を予測した技術の伝承です。K社では数年前から新卒採用を始め、ベテラン技術者が若手をOJTで育成しているところだそうです。
昨年末の政権交代により、日本経済に明るさが出てきたとはいえ、中小企業の経営はまだまだ厳しい状況です。中小企業は「入るを量りて出ずるを制す」経営努力を懸命に行わなければなりません。
また自社の事業存続のために、海外勢も意識した、他社に負けないための差別化も怠ることができません。

差別化は技術力を磨く、独創的な事業システムを考える、商品企画力を磨く、などですが、忘れてならないのは、差別化の土台はこのような差別化に取組むことのできる人材であるということ。

トヨタ社員の口ぐせに「モノづくりはヒトづくり」というフレーズがあります。トヨタには、豊富な資金もあり、合理化された生産設備もある。しかしこれらの経営資源を生かし、市場で優位に立つ車両生産を作り出す基は人材なのです。

K社のような中小製造業は日本に多く存在します。これらの企業の大半はトヨタの様な資金、設備を持ってはいませんが、持っているのは「人材」。

一芸に秀でた中小製造業になるためには、「人材」を磨き「人財」とするヒトづくりがベース。よって経営者の基本姿勢は、自助努力による一芸に秀でた会社になるための人財育成になるはずです。

筆者紹介

アタックスグループ 代表パートナー公認会計士・税理士丸山 弘昭 
数百社のクライアントについて「経営のドクター」として、経営・税務顧問、経営管理制度の構築・改善、経営戦略・経営計画策定、相続対策・事業承継、M&Aなどを中心としたコンサルティング業務に従事。幅広いネットワークと数多くの実績を生かし、経営者の参謀役、「社長の最良の相談相手」として活躍中。
丸山弘昭の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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