2025年版中小企業白書によれば、
・黒字にもかかわらず休廃業した企業の割合は51.1%と過半数を占めており、休廃業した企業の経営者の年齢は70代・80代以上の割合が増加傾向
であり、経営者の高齢化が進む中で、円滑な事業承継はこれまでと変わらず喫緊の課題となっています。
参考:2025年版「中小企業白書」全文
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2025/PDF/chusho.html
このような事業承継の課題を解消し事業承継をスムーズに進めるため、2008年5月に「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」が成立し、「事業承継税制」「遺留分に関する民法の特例」「金融支援」が定められました。
事業承継税制
既にご存じのように、非上場企業の株式に係る贈与税、相続税の納税を猶予または免除する、という制度です。
2018年の税制改正にて、特例措置の他、個人版の事業承継税制も創設されました。
この特例措置は、2027年12月31日までの10年間について「発行済株式の3分の2までの相続税について80%」であった猶予額が拡大する他、後継者の人数も1人ではなく最大3人まで、子や孫以外でも適用できる、などが盛り込まれ、「雇用の8割維持」については下回ったとしても理由を説明すればOKなど、要件も緩和されることになりました。
また、2025年の税制改正では、贈与税の特例措置における「3年以上役員であること」という後継者の役員就任要件が撤廃されることになりました。
年間200~400件程度であった活用は、この特例措置の創設によって2023年では5,000件超えとなり、特例措置の期限である2027年に向けてより増えていくものと思います。
遺留分に関する民法の特例
通常、自社株の評価額は高額となるため、自社株を取得した後継者と他の相続人との間で遺留分に関するもめごとが発生する、というリスクがあります。
このリスクに対する対処として、この特例は次のことを事前に合意することができる、という制度です。
除外合意
遺留分算定の財産から株式等の価額を除外することで、相続後の遺留分侵害額請求を未然に防ぎます。
固定合意
遺留分算定時の株式等の価額を固定することで、後継者の貢献による株式等価値の上昇分が遺留分算定に含まれないようにし、後継者の経営意欲を阻害しないようにします。
この制度は年間150件ほどであり、それほど活用はされていないようです。
金融支援
事業承継の際に必要となる資金についての融資と信用保証の特例措置であり、信用保証協会の保証実績や日本政策金融公庫の融資実績はいずれも増加傾向にあるようです。
以上の「事業承継税制」「遺留分に関する民法の特例」「金融支援」の他に、2021年8月に経営承継円滑化法として「所在不明株主に関する会社法の特例」も創設されました。
所在不明株主に関する会社法の特例
会社法では、株主に対して行う通知が「5年」以上継続して到達しない場合に、その株主が所有する株式の買取り手続をすることが可能となりますが、この特例はこの期間を「5年」から「1年」に短縮する、というものです。
この所在不明株主からの買取り手続きは、裁判所の許可を得て進めることになるため手続きが複雑であり、期間を短縮したとしても利用件数は限定的であると思われます。
経営承継円滑化法はそもそも、事業承継をスムーズに進めるために制定されたのですが、経営者の高齢化が進む中、まだまだスムーズな事業承継の促進、とまでにはなっていないようです。
特に、「遺留分に関する民法の特例」や「所在不明株主に関する会社法の特例」はより使いやすくなるような改正も期待されるところですが、事業承継に際し、これら制度の活用も検討されてはいかがでしょうか。
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筆者紹介
- アタックスグループ 代表パートナー
- アタックス税理士法人 代表社員 税理士 村井 克行
- アタックスグループ入社以来、長い歴史をもつ税務部門において、組織再編や相続対策など最新の税法・会社法の知識を生かした永続企業のための総合的な支援業務に従事。その実務家としての誠実で緻密な仕事ぶりは、多くのクライアントやオーナー経営者から、高い評価を得ている。