社外社員とその家族を大切にする経営

坂本光司の快進撃企業レポート 経営

企業経営において、社員とその家族と同様、経営者がその幸せを追求しなければならない人は、仕入先や協力企業等、発注者からの依頼を受けて、仕事に取り組んでいる人々のことです。

私が、仕入先や協力企業をあえて「社外社員」と名付けたのは理由があります。それは「仕入先や協力企業」と表現すると、発注者はどうしても、相手を原材料やコストと評価・位置づけしてしまい「安ければ安いほどいい」という発想で、相手を見てしまうからです。

加えて言えば、「仕事を出してやっている」とか「買ってやっている」といった、上から目線で仕入先や協力企業を見てしまいがちだからです。

一般的に、仕入先や協力企業が担当してくれている仕事は、発注者が技術的や設備的、あるいは、量的・納期的・コスト的といった理由で、社内ではできない・やれない・やりたくない仕事が大半です。

その意味であえて言えば、仕入先や協力企業が、皆一斉にそっぽを向いてしまったらば、発注者の事業活動は、たちまちストップしてしまうといっても過言ではない仕事を担ってくれているのです。

つまり、仕入先や協力企業の協力無くして、どんな企業でも一日たりとも存在できないのです。

こうした現実を踏まえれば、仕入先や協力企業を上から目線や、安ければ安い方がいいといったコストとして見る姿勢は、明らかに間違っているのです。

自社の社員と同様の社員、つまり「社外社員」と評価・位置づける経営が正しいのです。

仕入先や協力企業を、自社の社外社員、大切なパートナー企業と評価・位置付け、誠実な取引をするならば、仕入先や協力企業の発注者に対する見方も間違いなく変わると思います。

「こんなにも自分たちのことを考え、経営をしてくれているのか…」といった、感動・感謝へとつながるからです。
そして、より良い改善活動に、なお一層、注力してくれることはもとより、まるで発注者に属する社員のように、営業・販売活動にも協力してくれると思います。

このことは、たとえは少々悪いですが、犬や猫とて同様です。かわいがれば、かわいがるほど、なついてくれますが、いじめる人にはなつきません。そればかりか、理不尽なことをされると、噛みつきさえすると思います。

しかしながら、その実態を見ると、少しずつではありますが、改善してきていますが、依然「異議あり」と言いたくなる取引が、横行しているのです。

例えば、不況や円高・円安等により、発注者の業績が下がりそうだという理由で、発注者の利益は、ある程度確保されているにもかかわらず、一方的に大幅なコストダウンを実施する企業もあります。

よりひどいのは、好不況や円高・円安を問わず、まるで恒例のように毎年、程度の差こそあれ、コストダウンを強要する企業です。

また、仕入先や協力企業が、様々な工夫により、ようやく実現した、商品を、より安く調達するため「世界最適購買」とか「世界一やすい購買」等といって、図面を国内外の関係企業にばらまくような企業もあります。

そればかりか、ばらまかれるのが嫌なら、更なる低コストせよなどと、強要する企業もあります。またその要求が受け入れないと、「内作する」とか「転注する」等と、まるでやくざまがいの言葉を発する企業もあります。

理不尽な取引は、より肝心な単価の面においてです。発注者の利益率と、仕入先・協力企業の利益率が数倍開いているのは、どう考えても正しくないと思います。

その原因が仕入先や協力企業の工数(作業時間)に問題があるならば、やむを得ないのかもしれませんが、原因の大半は、賃率の違いにあるからです。

賃率も償却費や販売管理費等から来る違いならばともかく、決定的な違いは、その人件費と利益率にあるのです。

例えば、大企業と中小企業の賃金を年収レベルで比較すると、2倍以上になります。このことは利益率でも同様で、全業種平均ではやはり2倍以上の開きがあるのです。

もう一つ理不尽と思うのは支払い条件です。多くの企業は、締め後30日以上、または締め後25日払いであり、しかもそれを全額現金で支払う企業は多くはなく、大半はある金額以上になると、手形と併用したり、全額手形払いなのです。

しかも、その手形サイトも120日とか90日という手形が多いのです。

現金支払いではなく、手形支払いをするということは、その手形を、期日前に割り引けば、当然、割引手数料を支払わなければならないので、手形払いはその時点で、相手に値引き・買いたたきを要求しているのと同じです。

仕入先・協力企業を社外社員と評価・位置づけをすれば、せめて締め後20日以内、もとより全額現金で支払うべきと思います。

誰かの犠牲の上に成り立つような経営や企業間関係が、長く続くはずがありません。それどころか、こうした取引が、結果として一方の廃業を多発させ、産業組織を弱体化させてしまっているのです。

事実、今から40年ほど前、わが国には78万の工場が存在していたのですが、現在では35万しかないのです。

その大半が倒産ではなく廃業という事実が、このことを示しています。多くの企業は、あまりに理不尽な取引に嫌気がさし、身ぐるみはがれる前に「安楽死」を選択しているのです。

こうした廃業の多発は、中小企業だけの問題ではなく、大企業にとってもまた、わが国の未来にとっても深刻な問題です。仕入先や協力企業を大切にしない企業の未来は暗いと思います。

以下に参考までに、仕入れ先や協力企業を大切にしているか否かのチェックリストを示します。

  1. 支払いはすべて現金である
  2. 締め後の支払いは20日以内である
  3. 発注単価は相手の利益や人件費も十分考慮して決められている
  4. 既に流れている仕事を競争見積もりなどしない
  5. 相手の経営を考慮せず一方的なコストダウンなどしない
  6. 1日に同一部品を何回も納品させない
  7. 相手の要望がない限り内作や転注などしない
  8. 相手に過度な負荷を与えるような無理な納期での発注をしない
  9. 仕入先満足度調査を定期的に実施している
  10. 担当者が上から目線での発注はしていない

1日も早くこの項目すべてに〇がつけられる企業になって欲しいと思います。

 

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筆者紹介

坂本光司

アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長  坂本 光司(さかもとこうじ)
1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。

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