最近、金融機関の方々とお話しをさせていただく際に、「100億宣言」の話をよく耳にします。
100億宣言とは、売上規模を100億円以上に拡大していくという野心的な目標を掲げる企業が、その実現に向けた計画を公表する取り組みです。
この宣言を行った企業に対して国は、補助金や税制優遇、宣言企業の経営者ネットワークへの参加機会の提供など、さまざまな支援を積極的に行っています。
これまでも中小企業白書では、企業規模が大きいほど労働生産性(一人当たり付加価値)が高い傾向にあることが示されており、中小企業の生産性向上の必要性が指摘されてきました。
国としても、持続的な賃上げを実施するためには中小企業の労働生産性の改善が不可欠です。そのため、中小企業の企業規模の拡大を後押しする政策を積極的に進めているのだと思います。
一方で、補助金などの支援によって売上高を上げることができれば、企業規模の拡大は本当にうまくいくのでしょうか?
コンサルティングの現場で数多くの中堅中小企業の実態を見てきた筆者の視点から、企業規模を拡大する際に、売上拡大以外で直面する主な課題を4つ挙げてみたいと思います。
人材の育成・確保
経営者一人が把握できる範囲には、当然ながら限界があります。企業規模が拡大すればするほど、経営者だけでは目が届きにくい範囲が増えていきます。
例えば、優れたビジネスモデルで急成長した多店舗展開の飲食店や小売店では、企業規模の拡大スピードに店長の育成が追い付かず、店舗運営の質や魅力が低下するケースがあります。
その結果、既存店売上高が前年割れとなり、業績悪化につながる事例も少なくありません。
これは、企業規模の拡大には、それに見合った人材の育成や確保が不可欠であることを示しています。
経営を統制する仕組み
企業規模が小さいうちは、経営者自らが現場の細部まで指示を出すことが可能です。
しかし、企業規模が拡大すると、経営者一人で全てを把握し、意思決定を行うことが難しくなります。
そのため、組織の成長に応じた権限委譲が必要になります。
一方で、権限を委譲した後は、従業員一人ひとりが経営者の思いや方針を理解し、自ら適切な判断・行動をすることが重要になります。
そのためには、以下のような経営を統制する仕組みを整備し、運用していくことが重要です。
- 従業員の方々が日々の判断の礎とする経営理念の策定と浸透
- 会社として目指す方向性を示す、経営計画の策定と浸透
- 期初に掲げた行動計画や予算が着実に実行されているかを確認する仕組みと運用
- 従業員の方々が会社の方針に沿った行動を取れるよう促す人事制度の整備と運用
経営の見える化
「経営を統制する仕組み」の経営の統制を実施するためには、まず正確な経営実態を把握できる仕組みが必要です。
企業規模が小さいうちは、経営者自らが会社の末端まで状況を把握することが可能です。
しかし、企業規模が拡大すると、経営者一人で現場の状況を把握することは次第に困難になります。
そのため、月次決算や経営指標による業績把握、部門別損益、原価計算による得意先別・商品別損益の把握などを通じて、経営者が経営の実態をリアルタイムに把握できる仕組みを構築することが重要になります。
資金の確保
企業規模を拡大するうえでは、投資や増加運転資金など、多額の資金が必要になります。補助金も資金調達の手段のひとつではありますが、自己資金が必要となる場合も多くあります。
中堅中小企業における資金調達の重要な手段は金融機関からの借り入れです。
そのため、投資する事業の内容や成功可能性、投資によってどの程度のキャッシュ・フローを創出できるのかなどをまとめた事業計画をしっかり作成し、金融機関の理解を得ていくことが必要になります。
低成長やグローバル化による競争環境の変化により、これまで多くの企業は、仕入や人件費などのコスト削減によって収益力を高めてきました。
しかし、昨今のコスト上昇の波(人口減少、円安、資源価格の高騰、サイバーセキュリティ対応や規制強化など)により、コスト削減による収益改善には限界がきています。
そうした環境下では、生産性向上、価格交渉力の強化、投資余力の確保などを実現するために、企業規模の拡大は重要な経営戦略のひとつになると考えられます。
ただし、前述のような取り組みを行わず、規模拡大だけを追求すると、かえって会社が厳しい状況に陥る可能性があります。
売上拡大と同時に、これまで述べた課題への対応も並行して進めていただけることを願っております。

アタックスグループでは、100億企業への成長に向けた多様な課題に対し、経営、財務・税務、組織、営業など各分野の専門家が連携し、ワンストップでお客様を支援しています。
企業規模の拡大を図りたいとお考えの経営者の方がいらっしゃいましたら、こちらからお気軽にご相談ください。
筆者紹介

- 株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 執行役員 中小企業診断士 伊原 和也
- 大手ノンバンクを経てアタックスに入社。中堅中小企業を中心に企業再生支援、M&A支援、中期経営計画策定支援および株式公開支援等を中心にプロジェクトマネージャーとして活躍中。
