営業職からコンサルタントに転身して15年が経ち、その中で多くの営業組織と関わってきましたが、強い営業組織とそうでない営業組織の違いは、「プロダクトではなく、営業の力」で粗利を確保できるかどうかにあると考えています。
当然のことながら、粗利を確保できる企業とそうでない企業とでは、事業の安定性にも大きな差が生じます。
さらに、昨今は販管費は上昇傾向にあり、今までの粗利を維持しても営業利益が目減りする一方ですので、粗利確保は企業の最重要課題と考えます。
粗利を確保するための要素は事業モデルによって様々ですが、営業力と関係する粗利確保について多くの組織に共通する点として、今回は「値引き」をテーマにお話をします。
営業の値引きが常態化してしまう要因
「値引き」でしか交渉できない営業や営業組織は、営業力が不足していると考えられますが、力不足の営業が「値引き」に走る要因は以下にあると考えます。
期限までに受注を確保できず、期末や月末に目標不足金額を埋める手段として、「値引き」を選択する
2. 価格以外の武器がない
製品やサービスの差別化ポイントをうまく伝えられない営業は、「値引き」でしか勝負できない
3. 交渉スキル・提案力の不足
本来の価値を納得させる提案力が不足していると、「値引き」しか打つ手がなくなる
4. 会社としての値引き文化
「値引きは交渉の一部」という文化が根付いていると、営業は工夫せず安易に「値引き」交渉に応じる
「当社の営業組織ではこのようなことは無い」と断言できるのであれば、一定の営業力が備わっていると考えて良いと考えます。
しかし、私の関わってきた営業組織では、上記を起因とした「値引き」による粗利不足が問題となっているケースは、決して少なくありません。
そもそも、会社の事業計画は、目標とする営業利益から逆算して、販管費、粗利額、売上目標を設定しています。
そのため、売上目標を達成できても、値引きが多ければ粗利が不足し、事業計画が崩れてしまいます。
売れないなら「値引き」して、少ない粗利でも確保するべきだという考えが、絶対に間違っているとは言いませんが、「値引き」が当たり前になっていくことで、営業は考えることや工夫することを避けるようになり、価格が高いから売れないという思考に陥ります。
以上のことから、「値引き」が常態化している営業組織は、十分な営業力が備わっていないと考えます。
値引きで勝負しない営業が持つスキルとは
もし、自社の営業が「値引き」を前提とした営業活動をしているのではないかという懸念がある場合には、次に記載する「値引きせずに売れる営業の特徴」をもとに自社の営業活動の改善を進めていただければと思います。
1.価値ベースの提案ができる
・商品やサービスが顧客の課題をどう解決できるかを明確に伝えられるように準備する
・価格の理由(品質・サポート・将来性など)を理論的に説明できるようにする
2.顧客の「本音のニーズ」を引き出す力がある
・表面上の「安くしてほしい」の裏にある、本当の欲求(安心・信頼・成果)を見抜けるようになる
・「なぜそう思うのか?なぜそれが欲しいのか?」を掘り下げる質問力を磨く
3.比較されないポジショニングを作る
・独自のノウハウ、導入実績、サポート体制、成功事例などで差別化を図る
・競合以上に優位性をもち関係を強化する
4.価格交渉をされない説明
・値引き前提の商談を最初からしない
・値引きの余地がないことを初期で伝え、代わりに付加価値やサービスを提案する
「値引き」をせずとも販売できる営業は、上記のような切り口を駆使し、営業活動を行っていますので、是非、改善の参考にしていただければ幸いです。
まとめ
最後になりますが、粗利確保は、企業の健全な経営と持続的な成長の基盤に直結しており、営業の立場から見ても非常に本質的なテーマです。
そして、営業の範疇である「値引き」は利益を直撃し、売上以上に深刻な影響を及ぼすことがあります。
十分な利益が確保できなければ、昇給、設備投資、採用といった将来への投資ができず、企業にとっては大きなリスクにつながります。
また、値引きによる安売り体質は、企業のブランド価値を損ねる要因となり、それを取り戻すための時間と労力は、はかり知れません。
営業は単に「売る」のではなく、「利益を残す売り方」を意識することが重要であり、「利益があるからこそ会社は存続する」という視点を持つことが必要です。
そのために営業は「値引き」をせずとも売れる力を磨き続ける必要があります。
是非一度、自社の営業状況を確認し、粗利確保と「値引き」について考えていただければと思います。
筆者紹介
- 株式会社アタックス・セールス・アソシエイツ 主任コンサルタント 山北 陽平
- 富士通グループ主力販売会社を経て、株式会社アタックスへ入社。前職では、営業として東海エリア250人中1位の実績をとりMVPを獲得。アタックス入社後は、営業のコンサルタントとして企業のコンサルティングに従事する。現在はNTTドコモ、パナソニックグループ、朝日新聞社、などの大企業から、中小企業まで、多くの企業に「行動分析学」をもとにした行動改革指導を実施している。その指導は年間200日を超え、指導対象のビジネスパーソンは年に3,000人にのぼる。10年間の在籍期間に300社以上のコンサルティングを経験し、様々な業種業態の課題解決手法を持っている。専門の営業とマーケティング以外にも、製造、技術、管理、企画、クリエイト、物流など広範囲の組織変改を実現するコンサルティングを展開。現場の中で作り出した指導ノウハウは、参加者の9割が設定した問題を解決するという圧倒的な成果を出している。とことん結果にこだわった指導スタイルは多くの経営者、マネジャーから絶大な評価を得ている。