もし明日、被災したら~有事に会社を守る「財務の備え」

もし明日、被災したら~有事に会社を守る「財務の備え」 会計

2026年7月28日、熊本県熊本地方を震源とする地震が発生し、最大震度7を観測しました。

工場や住宅などに被害が発生し、一部地域では現在も断水が続いています。

さらに、8月13日には千葉県でも記録的な大雨となり、気象庁が全国で初めてレベル5の大雨特別警報を発表するなど、浸水や河川の氾濫による甚大な被害が発生しました。

こうした災害は、私たちの生活だけでなく、企業の事業活動にも大きな影響を及ぼします。

実際、帝国データバンクが熊本地震後に実施した「令和8年熊本地震の影響と防災に関する企業アンケート」(有効回答938社)によると、自社の事業活動に「影響がある(見込みを含む)」と回答した企業は15.7%にのぼりました。

さらに、被災地の九州の企業に限ると、その割合は5割を超えています。

出典:帝国データバンク「令和8年熊本地震の影響と防災に関する企業アンケート」
https://www.tdb.co.jp/report/economic/20260814-r8kumamotoearthquake/

そして注目すべきは、実際に被災した企業だけでなく、全体の84.6%が「何らかの防災対策を新たに導入・見直したい」と回答している点です。

多くの経営者が、他人事ではないと感じ始めているのです。

自然災害は「いつか起こるかもしれないリスク」ではなく、「いつ自社に降りかかってもおかしくないリスク」であることを、今回の一連の災害は改めて突きつけました。

では、実際に災害が起きたとき、企業経営にはどのような影響があるのでしょうか。

被災した企業が経営破綻に至るのは、必ずしも地震や水害そのものが直接の原因とは限りません。

むしろ、多くのケースで問題化するのは、その後の資金繰りです。コロナ禍でも、同様の構図がありました。

ゼロゼロ融資などの資金繰り支援で一時的に延命した企業が、返済期限の到来とともに経営の実態が表面化し、なかには長年の粉飾が発覚するケースも相次ぎました。

災害においても構図は同じです。売上が止まり、復旧費用がかさむなかで、平時から備えのなかった企業ほど、有事の資金繰りで手詰まりになりやすいのです。

つまり、防災対策とは設備や避難計画だけの話ではありません。

「有事に会社を潰さないための財務的な備え」も、重要な防災対策の一つなのです。

筆者の見るところ、多くの中小企業に共通する弱点は、大きく次の5つに整理できます。

罹災証明書の取得に手間取り、各種支援策の活用が遅れる

被災後の緊急融資、補助金、税制優遇など、さまざまな支援策の活用には、罹災証明書の取得が必要となる場合があります。

取得手続きや必要書類を事前に把握していない企業は、支援策の申請そのものでつまずき、初動が数週間単位で遅れることがあります。

火災保険・地震保険・費用損害保険などの補償が実態に合っていない

「保険に入っているはず」と思っていても、実は水災が補償対象外となっていた、休業損害まではカバーされていなかった、というケースは珍しくありません。

前述のアンケートでも、建物が大きな被害を受けた場合には、補償する保険がなく、事業継続が難しいという企業からの回答がありました。

契約内容を数年間見直していない企業ほど、こうした補償内容と実際のリスクとのギャップに気づきにくい傾向があります。

平時の資金繰り表・キャッシュフロー管理が整備されていない

月次の資金繰り表を作成していない、あるいは作成していても形骸化している企業は、被災直後にどれだけの資金が必要で、現状でどれだけの期間持ちこたえられるのかを即座に把握できません。

「いくら必要なのか」を把握し、説明することができなければ、資金調達の遅れが復旧の遅れに直結します。

金融機関との関係が「有事に頼れる関係」になっていない

普段から業況や見通しを共有し、信頼関係を築いてきた企業と、決算書の提出だけで関係が完結している企業とでは、有事の際の相談のしやすさや、資金調達への対応に差が出ることがあります。

あらためて、日頃から「メインバンク」として相談できる金融機関が存在するかどうか、今一度ご確認することをお勧めします。

セーフティネット貸付・共済制度など公的支援策の情報が経営者に届いていない

セーフティネット貸付・共済制度など公的支援策の情報が経営者に届いていない

中小企業向けのセーフティネット保証、災害復旧貸付、共済の特例措置など、活用できる制度は少なくありません。

しかし、情報が現場の経営者まで届かず、「知らなかったために使えなかった」という機会損失が起きています。

参考:中小企業庁「資料10 被災中小企業に対する公的支援制度」
https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/contents/level_a/bcpgl_08_10_2.html

また、少し毛色は変わりますが、「資金繰りに窮して金融機関等に支援を仰いだ瞬間」に、過去の粉飾決算が発覚する事が多いのも、現場で働くコンサルタントの実感です。

いずれにせよ、災害時の資金繰りは、そもそも適時の資金繰りを把握・管理できているか、日頃から正しい会計処理に基づく開示ができているかなど、平時にどれだけ備えていたかが、そのまま経営の地力として表れます。

防災対策を防災設備への投資やBCP文書の作成で終わらせず、財務面での備えとセットで見直すことが、これからの中小企業経営には欠かせません。

今日からできることとして、まずは以下の3点から始めてみてはいかがでしょうか。

  • 保険契約の補償範囲を再確認する
  • 直近の資金繰り表を作成・更新し、予算と実績を比較する
  • 顧問税理士や金融機関に「もし被災したら」を前提に、一度相談してみる

防災対策への関心が高まっている今だからこそ、連絡網や避難マニュアルの整備とあわせて、「有事に会社を潰さない」ための財務面の備えにも目を向けていただきたいと思います。

備えは、起きてからでは遅いのです。

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筆者紹介

株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 取締役 税理士・MBA(経営学修士) 浦井耕
TFP(現山田)コンサルティンググループ、中小会計事務所を経て株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティングへ入社。ハンズオンによる管理制度構築支援や多数の企業再生支援に従事。2011年の東日本大震災以降は特に宮城県内の被災企業の再生支援を多く手掛ける。

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