税務調査の事績
法人税及び消費税の税務調査における令和6事務年度(令和6年7月~令和7年6月)の実地調査件数は、54千件となり令和5事務年度の59千件と比較して約8%減少しています。
調査件数につき過去からの推移を見てみると、平成30事務年度までは増加傾向にあり、約99千件に達していました。
しかし、その後はコロナ禍の影響を受け、調査件数はおよそ4分の1程度まで減少しています。
その後、緊急事態宣言の解除を受け、令和4事務年度からは徐々に調査件数も増えていきましたが、令和5事務年度以降は横ばいの状況が続いています。
しかしながら、追徴税額の推移に目を向けると、平成30事務年度では2,743億円であったのに対し、令和5事務年度は3,197億円、令和6事務年度は3,407億円と増加しています。
特に令和6事務年度は、直近10年で最高値となっています。国税庁によれば、この背景には、近年重点的に取り組んできた「AIの活用」があるとされています。
国税庁のAI活用
国税庁では、全国の国税局と税務署をネットワークで結ぶKSK(国税総合管理システム)を平成2年から開発し、平成13年以降、全国で運用される基幹システムとして活用してきました。
当初は、納税者の申告や納付状況の管理が中心でしたが、e-Taxの運用を含めてシステムの活用が進むにつれ、蓄積されるデータは大幅に拡充してきました。
具体的には、企業が提出する申告書や決算書、科目内訳書に加え、支払調書や法定調書、さらには税務調査等で知り得た情報など、多岐にわたるデータが蓄積されています。
こうしたデータを基に、分析・検討を行うことで、システムは継続的に高度化してきました。
特に最近では、AIに学習させることにより、調査の必要度が高い納税者を的確に抽出し、調査の重点化を図る取り組みが進められています(令和7事務年度の取組方針)。
国税庁が公表している令和6事務年度の事績においては、「AI・データ分析の活用」として、次のような流れが示されています。
まず、AIの活用により予測モデルを用いて調査の必要度が高い法人を抽出し、調査選定候補を選びます。
次にその法人について調査官が申告書や各種資料情報を分析し、実地調査を行うかを判断します。
そして、実地調査を行う場合には、あらかじめ着目していた事項を中心に実態の把握を行う、という流れです。
具体的な事例としては、
- 売上除外(伝票破棄、代表者個人口座への移管)
- 原価の過大計上(偽装請求、水増し請求)
- 経費の過大計上(偽装出勤表、偽装請求)
などが挙げられています。
なお、令和5事務年度においては、AI活用により抽出された法人のうち、約60%が実際の調査に移行したとされています。
今後の動き
KSKでは、ハードウエアが系列ごとにベンダー分割され、課税、債権管理、徴収といった各機能が独立して構成されていました。
このため、令和8年9月より、後継システムであるKSKⅡへの切り替えが予定されています。
KSKⅡでは、「科目別・事務系統別のデータベース・アプリケーションの統合(縦割りシステムの解消)」が図られ、クラウドベースでの処理が可能となります。
これにより、個人・法人に関する関連情報の一元管理が実現され、調査の精度や効率の向上が期待されています。
例えば、個人(社長等)が会社に貸し付けている資金や不動産収益が個人の申告に適切に反映されているか、あるいは株の移動による課税処理(申告等)が行われているかといった点について、的確な把握が可能になると考えられます。
また新しいシステムでは、外部データやインターネット情報の取り込み(具体的な範囲は未公表)も可能となる見込みであり、AIの学習に活用するためのデータ蓄積が一層進むことになります。
今後は、このようにデータ分析によって抽出された調査必要度の高い法人へのアプローチが増えていくものと予想されます。
一方で、令和5事務年度および令和6事務年度の傾向を踏まえると、実地調査件数自体は大きく増加しない可能性があります。
これは、実地調査に代えて、電話や書面による簡易な接触が増加しているためです。
実際に、令和5事務年度では75千件(227億円)、令和6事務年度では85千件(265億円)と件数・金額ともに増加しています。
今後は、実地調査と簡易接触を使い分けることにより、より効率的かつ効果的な税務行政が行われていくものと考えられます。
なお、この簡易な接触は行政指導に位置付けられ、原則として税務調査には該当しませんので、これに応じて修正申告を行い追加納税した場合であっても、過少申告加算税は課されない取扱いとなっています。
結び

今後はデータ分析に基づき、広範な情報から予測モデルによる抽出(調査対象の選出)が行われていくと考えられます。
そのため、少なくとも決算書上の異常値については、あらかじめ把握しておくことが重要です。
例えば、前年対比で粗利の変動がある場合、商品構成の変化によるものなのか、あるいは販売価格の変動によるものなのかといった要因を整理しておく必要があります。
また、経費の変動についても、科目ごとに増減の内容を明確にし、その理由を具体的に説明できる状態にしておくことが求められます。
そして、こうした分析結果については、申告書に添付する概況書等に記載し、あらかじめ説明しておくことが有効な対応策と言えるでしょう。
筆者紹介

- アタックス税理士法人 代表社員 税理士 愛知 吉隆
- 中堅・中小企業から上場企業に至るまで、アタックス税理士法人名古屋事務所の税務顧問先の業務執行責任者として、税務対応のみならず、事業承継や後継者支援、企業の成長支援等の課題や社長の悩みに積極的に携わっている。またその傍ら、金融機関や商工会議所等主催のセミナー講師を多数務め、どんな難しい内容も分かりやすく解説し、軽快な語り口は決してポイントを外さないと好評である。幅広い知識を武器に“社長の最良の相談相手”として活躍中。
