読めない相場とどう向き合うか~イラン情勢から学ぶ「為替変動に備える経営!」~

読めない相場とどう向き合うか~イラン情勢から学ぶ「為替変動に備える経営!」~ 経営

イラン情勢と原油高で高まるコスト増リスク

米国がイランを攻撃してから、早一か月が過ぎました。早期決着の予想に反し、事態は膠着状態となっています。

その間、原油価格は高騰し、円安の影響も重なり、日本の円建て原油輸入価格はウクライナ侵攻時を上回り、過去最高水準に達しています。

その影響は、輸出入企業にとどまらず、多くの国内企業のコストにも徐々に波及し始めています。

こうした世界情勢にも関わらず、比較的落ち着いた動きを示しているのが為替相場です。

なぜ円安が進まない?為替相場が膠着する背景

足元では1ドル=159円前後と円安水準にはありますが、米国によるイラン攻撃直前の156円程度や、年初の157円程度と比較すると、歴史的な有事の局面としては限定的な動きにとどまっています。

攻撃当初は、さらなる円安進行を見込む見方がやや優勢でしたが、それでも円が底堅く推移している背景には、円安要因とドル安要因が併存している点が挙げられます。

まず円安要因です。典型的なのは「有事のドル高」です。

不安が局所にとどまらず世界的に高まる局面では、資金は米ドルに集まりやすくなります。

また、日本は原油の大半を中東に依存しており、この供給が不安定化すれば、日本の産業活動にも重大な影響が及びます。

さらに、原油価格の高騰は、日本の貿易収支の悪化やスタグフレーションを招きかねず、結果として円安圧力を強めます。

一方で、ドル安要因も存在します。今回は「米国の戦争」という側面が強く、軍事費の増加による財政負担の拡大や政府債務の膨張が意識されています。

加えて、もともとドルには割高感が指摘されていたこともあり、ドル高圧力が相殺されている面もあると考えられます。

また、軍事行動の長期化によって、米国の対外政策に対する不透明感が高まり、ドルに対する見方に影響を与えている可能性もあります。

さらに重要なのが、「政策の予測可能性の低下」です。

この戦争が長期化するのか、それとも突然終結するのか。市場はトランプ氏の言動に振り回され、政策の方向性を読み切れない状況にあります。

そのため、大きな為替変動を前提としたポジションを取っていない可能性があります。

結果として、現在のような方向感に乏しい膠着的な相場が形成されているのです。

政治リスクで高まる為替変動と企業への影響

この最後の点は、事業会社が為替変動と向き合う上で非常に重要な示唆を与えています。

市場参加者が「大きなポジションを取らない」という行動と、事業会社が為替リスクに備えるという行動は、本質的にはいずれもリスクを抑えるという点で共通しています。

しかし、その前提と手段は大きく異なります。

市場参加者は、売り買いのポジションを自在に動かすことでリスクを調整できます。

一方で事業会社は、輸出入の取引が存在する時点で、すでに為替ポジションを抱えてしまっています。

特に今回のような戦争といった大きな政治的イベントは、

  • 発生時期
  • 影響規模
  • 終了時期

のいずれも極めて読みづらい性質を持っています。

為替は予測より備えが重要

こうしたイベントを予測し、為替変動を“当てに行く”ことは、正しいのでしょうか。

回答はシンプルです。

「当てに行くのでなく、最悪の事態に備えること」

世の中の動きや相場に対して、一定の見方を持つことは重要ですが、円高・円安の方向や水準を当てに行き、それを前提に対策を講じると、逆に振れた場合に大きな損失につながりかねません。

プロのトレーダーや投資家にとっては、相場で利益を上げること自体が仕事です。

しかし事業会社にとって重要なのは、相場で利益を上げることではなく、為替が大きく変動しても事業を継続し、商品やサービスを安定的に提供し続けることです。

そのための為替対策には、いくつかのポイントがあります。

「最悪の為替水準」を明確にする

自社にとって、利益が出なくなる、あるいは経営が立ちいかなくなる為替水準はどこなのか。

まず「何円まで耐えられるのか」を把握することが出発点です。

何となくの感覚ではなく、過去の相場変動や、現在の原価構造を踏まえ、どの程度の為替変動に耐えられるのかを数値で捉えることが重要です。

ヘッジは“0か100”ではなく、耐久力に応じて設計する

ヘッジが0%または100%というのは、見方を変えれば相場を当てに行っていることと同じです。

為替ヘッジの目的は、為替変動の影響を完全に消すことではなく、衝撃を緩和し、対応する時間を確保することにあります。

為替リスクを財務部門だけの問題にしない

為替ヘッジによって短期的な影響は緩和できますが、長期にわたり為替の影響を遮断することはできません。

調達、価格設定、販売など、事業全体で為替変動への対応余地を把握し、組織としてリスクを共有することが不可欠です。

また、見落とされがちなのが、為替取引を行っていない国内企業も為替の影響を受けるという点です。

原材料、燃料、電力、物流など、多くのコストは為替と連動しています。

「当社は国内企業だから為替は関係ない」

この認識こそが、最大のリスクになり得ます。

繰り返しになりますが、政治・軍事的なイベントは、その発生も影響も予測が極めて困難です。

だからこそ企業に求められるのは、相場を当てることではなく、予想が外れても致命傷にならない体質をつくることです。

為替ヘッジに必要なのは、相場を当てる技術ではありません。予想が外れても耐え抜き、企業を存続させるための技術なのです。

こうした考え方や具体的な対応策について、より体系的に整理したものが以下のセミナーです。

為替の仕組みや相場観、リスクヘッジについてご関心のある方は、参考にしていただければ幸いです。

本稿で述べた通り、本セミナーは為替を“当てに行く”ためのものではなく、相場観を養い、予期せぬ変動に備えることを目的とした内容です。

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筆者紹介

松野賢一

株式会社アタックス 執行役員 金融ソリューション室 室長 松野 賢一
現メガバンクにて中堅中小企業取引先に対する金融面での課題解決、銀行グループの資本調達・各種管理体制の構築、日本銀行及び内閣府への出向にて経済調査・制度改革立案、等を経て、アタックスに参画。現在は、金融ソリューション室室長として、中堅中小企業の経営者が本業に邁進できるよう、主に金融・財務戦面からに環境整備支援に注力している。

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