はじめに
日本国内では高齢化が進み、相続を巡る課題が増加しています。同様に、後継者不足などによる事業承継の課題も深刻さを増しています。
筆者のもとにも、会社オーナーなどから財産に関わるご相談が年々増えています。
「相続のことが気になる。」
「株の承継をどうしたらいいかわからない。」
というざっくりしたものから、
「相続税を試算してほしい。」
「財産の分割について事前に段取りをしておきたい。」
「オーナーから株を買い取るスキームを検討し、交渉をしてほしい。」
など、ご相談内容は様々です。
なかでも、オーナーや会社の担当者を問わず、持株会の組成に関するご相談は増加傾向にあります。
持株会とは
持株会は、主に従業員から拠出金を募り、その拠出金を原資にして会社の株式を協同購入する仕組みです。
本来、株主は、株式を直接保有することから株の売却により利益を得ることができ、企業の利益に応じて配当金をもらうことができます。
また、株主は株主総会において議決権を行使し、経営に参画することができます。
個人が株主である場合には、これらの権利を直接的に享受できます。
一方、持株会は、会そのものが株式を保有します。従って、会員である従業員は、持株会を通して、間接的に株式を保有しているに過ぎません。
受け取る配当金は、持株会を通して拠出割合に基づき分配されます。
議決権の行使についても、持株会として経営に参画することになります。
なぜ持株会なのか
では、従業員が持株会を通して間接的に株を保有することには、どのようなメリットがあるのでしょうか。
得られるメリットは以下の通りです。
株主は持株会であることから、会員に相続や入退会があったとしても株主そのものは変動しない。
2.受け皿機能
株主が分散している場合には、それらを集める受け皿にすることができる。
3.従業員への事業承継
オーナーが保有する株式を持株会に譲渡することで、従業員が共同経営する会社にすることができる。
4.相続税対策
オーナーが保有する株式を持株会に譲渡することで、オーナーが保有する財産を圧縮することができる。
5.福利厚生の充実
従業員は配当を受けることができる。
6.エンゲージメント効果
持株会会員(間接保有の株主)であることから会社に愛着を持つ場合が多い。
持株会のデメリット
一方で、以下のようなデメリットや留意点にも注意が必要です。
2.オーナーが自身の株式を持株会に譲渡した場合、M&Aや会社清算時における財産権を放棄することになる。
3.従業員の入退社があったとしても持株会は存続しなければならない。
4.配当を継続するのが好ましい。
5.株価上昇によるキャピタル・ゲインは設定されないことが多い。
実際にあったご相談
G社の事例
オーナー会社であるG社は、子供はいるものの後継者はいない状況でした。
そこでオーナーは、オーナー家の名前を残すことと自分が亡くなった後の配偶者の生活保障を考慮し、保有する最大限の株式を、役員の持株会と従業員の持株会に譲りました。
そして、社員が経営に参画する共同経営体制への移行を決断しました。
A社の事例
もともとオーナーが存在せず、従業員20人がそれぞれで株式を保有していました。
保有している従業員が退職した場合、または死亡した場合には、紳士協定に基づき、次の従業員へ個別に引き継がれていました。
しかし、引き継ぐ回数が増えるにつれて、突然亡くなった従業員の遺族と譲渡の交渉が決裂する、譲渡側と取得側の従業員の間で、価額が折り合わない、誰がどのくらいの株数を保有すべきか頭を悩ますなど、様々な課題が積み重なっていったようです。
そこで持株会を組成し、全ての株式を集め、入退会のルールを規定し、円滑な運営を企画しました。
H社の事例
オーナーはM&Aを検討する中で、相応の金額を提示され心が揺れ動いていました。
オーナーは会長としての立場にあり、実際の業務運営は現場の役員層に任せていました。
現場の役員たちは、会社を第三者に身売りをするくらいなら、自分たちの手で守りたい、引き継ぎたいと考え、資金に限りがあるもののオーナーと交渉する決心をしました。
約1年にわたる交渉を経て、役員たちは会長の会社に対する想いを理解するようになり、会長自身も役員たちに会社を託せると思えるようになりました。
そうして、双方において会社の将来像が一致しました。
最終的に、会長は納得のいく最低限の金額で持株会に株を譲渡し、現在では、会長と会社役員、そして会社との関係が、以前にも増して良好なものとなっています。
まとめ
近年、持株会を作るケースが増えています。持株会は、所定の手続きを踏めば設立が可能です。
しかし実際は、オーナーの在り方や会社の理想像などをじっくり検討し、オーナー、会社、従業員のそれぞれが納得できるように、議決権、資金、ステータスなどの諸問題のバランスを取りながら解決していかなければなりません。
我々アタックスグループは、「社長の最良の相談相手」として、表立って取り上げられにくいけれど重要な部分を大切にし、お客様が末永くご繁栄されることを心より願っております。
事業承継支援サービス、財産承継支援サービスにご関心のある方はこちらからお気軽にお問い合わせください。
筆者紹介
- アタックス税理士法人 代表社員 税理士 青木 規朗
- 中小企業から上場企業まで幅広い法人税務顧問を担当する傍ら、個人資産家や企業オーナー等への資産税業務に従事。特に組織再編を含めた自社株承継対策や相続対策など財産コンサルティングを得意とする。 税法にとらわれない顧客の立場に立った課題解決をモットーとしている。