“円安”に負けない企業の対策事例 ~社内レートを適切に設定する方法~

経営

円安が中堅中小企業の業績に多大な影響を与えている

1年ほど前から、急激に円安が進行しています。

2022年のはじめに1ドル=115円程度であったドル円レートが、3月ごろから急激に円安となり、10月中ごろには、一時150円台となりました。

円安になると、輸出企業は同じドルでの販売価格に対して、受け取る円での金額が増加しますので、売上高が増加し業績向上につながります。

一方で、輸入企業にとっては、これとは逆に同じドルでの仕入価格に対して、支払う円での金額が増加しますので、仕入高が増加し業績悪化につながります。

一般的に、大企業は海外売上高も大きく円安はプラスに働くものと考えられますが、筆者が支援している中堅中小企業は海外売上高比率は少なく、一方で様々なものを海外仕入に頼っていることも多いため、円安により会社業績に多大な影響を受けています。

円安という外部環境の急激な変動に対して、コスト削減などの自助努力だけでは限界があります。

そこで、販売価格の見直しも行わざるを得なくなりますが、その際には自社の原価をいくらで見るのかが重要な判断材料になってきます。

その原価を見積もる際に重要な指標となるのが社内レート*です。

* 社内レート…原価計算を行う際に使用している為替レート。

社内レートの設定事例

この社内レートの設定について、筆者が支援している先の例をご紹介します。

A社のケース

国内メーカーよりOEM品の製造を受託し、自社で企画開発し、主に中国の協力工場へ製造を委託している企業です。

昨年は、円安が急激に進行したことにより対策が打ち切れず、為替差損を大きく計上したことに伴い、大きな赤字を計上することになってしまいました。

その教訓を活かして、今期は社内レートを実際の為替相場よりも少し高い(円安の)150円に設定しました。

これにより、150円をベースとした原価設定とそれによる得意先との価格交渉を行うことで、150円のレートでも営業利益を確保することが出来ているとともに、為替差益(社内レートと実際レートの差)も発生し、安定的な利益計上を獲得することが出来ています。

B社のケース

海外から商品を仕入れ、国内メーカーに販売している商社です。

B社は、過去から輸入取引を行ってきていたこともあり、以前から為替予約を活用してきました。

向こう3~5年に実際に必要となるドル決済のうち5~8割にあたる分について為替予約しています。

そのため、今回の円安で1ドル150円近くのレートになった際にも、B社では1ドル120円程度の金額で仕入れを行うことが出来ていました。

為替予約している120円レートによる仕入原価をベースとした販売価格では、競合他社よりも非常に有利(安価な価格提示が可能)となりますが、それでは実際にはもっと高い値段で販売できた可能性もあり、利益獲得の機会損失に繋がってしまいます。

そこで、B社では、社内レートは為替予約しているレートではなく、市場相場レートをやや下回る程度のレートとすることで、競合他社との価格競争力も確保しつつ、利益獲得を極大化できるように工夫しています。

社内レートは、企業業績を左右する重要な指標

円安に対して、どのような対策を行っているかを、社内レートの設定方法という観点から、2社の事例をご紹介いたしました。

輸出入が関連したビジネスを行っている会社では、社内レートに基づき価格設定し、顧客と交渉していることが多いと思います。

この社内レートに基づき、各営業社員は原価を見積もり、得意先へ価格提示することになりますので、この社内レートをどのような水準で設定するかが、企業業績に大きく影響することになります。

経営者には、社内レートが重要な指標であることを認識した上で、どれくらいの水準にするか意思決定することが求められます。

筆者紹介

株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 執行役員
中小企業診断士 辻 裕之
銀行系システム会社、NRIデータサービス(現野村総合研究所)を経て、アタックスに参画。中堅中小企業を中心に、企業再生、M&Aサポート、計画経営推進、管理体制整備、経営顧問業務など幅広い業務にあたるオールラウンダーなプロジェクトマネージャーとして活躍中。
辻 裕之の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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