弱者にやさしいランドセルメーカー②

経営

【前回の投稿】弱者にやさしいランドセルメーカー①

前回に引き続き、協和の話をもう少し続けます。

第10回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の授賞式で、協和の若松種夫社長が恒例のスピーチをしてくれました。
 
「第3回にも受賞させていただきましたが(その時に)上位の受賞企業のスピーチを聞き、そこまでやっているのか…と、その差を思い知らされました。以来、自社の至らぬ点の改善に全社を挙げ取り組んできました。その努力が評価され、今日はとてもうれしい…」

その声はかすれ、力を振り絞って声を出しているようでした。

スピーチで触れた第3回の受賞は、東日本大震災などでの同社の献身的な活動を称えたものでした。

震災でランドセルを失った子どもたちが大勢いました。

同社は全国から中古のランドセルを募る活動を始めました。

もちろん倉庫で眠る在庫品を贈った方が手間はかかりません。

しかし、使い古しであっても全国から心のこもった善意を届ける方が、意味があると考えたのです。

寄せられたランドセルは予想をはるかに超えました。

それを一つ一つ、痛んだ部品を修理して届けたのです。

中にほぼ新品のものがありました。

同封の手紙には「お兄ちゃんが今春、小学校を卒業するので、僕はお下がりを使います」と、自分の新しい品を譲ってくれたのでした。

東日本大震災ではもう一つ別のドラマがありました。

同社はランドセルの購入者向けに「未来に届けタイムレター」というサービスをしています。

購入者が子どもあてに書いた手紙を預かり、千日後、つまり小学3年の夏に届けるのです。

震災が起きた年の夏。仮設住宅で暮らす女の子の元にお母さんからのタイムレターが届きました。

けれどもお母さんは3・11の津波ですでに亡くなっていました。

会社や学校にいたお父さんと女の子は助かったのです。

時を超えて届いた手紙。愛情あふれる言葉がありました。

「げんきに学校にいってくれるだけでおかあさんは、あんしんです。このてがみを、みんなでよんでいるところをたのしみにして、これからもおかあさんはがんばっていきます」

余談になりますが、若松種雄社長は第10回大賞受賞数か月後、癌のため天国に召されました。

 
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筆者紹介

坂本光司

アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長  坂本 光司(さかもとこうじ)
1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。

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