脱公共事業のモデル企業

経営

島根県松江市に、島根電工という社名の中堅企業があります。主事業は社名のとおり、建物の空調工事や給排水工事、電気設備工事と、住まいのお助け隊事業の2本柱です。

かつては、売上高のほぼ100%、公共事業でしたが、今は、半分の事業はBtoCビジネス、つまり、家庭を対象としたビジネスです。

「住まいのお助け隊事業」は、各家庭から電気が付かないとか、テレビが見えないとか、さらには、水道の水がぽたぽた落ちている等といった、住まいの困りごとに対し、島根電工の社員がお伺いし、修理・修繕するビジネスです。

小さな工事は、無料から大半は10万円以下ですが、件数が多く、まさに「ちりもたまれば山となる」ではないですが、これら工事金額を合計すると50億円をはるか上回る金額です。

同業者の多くが、売上高はぶれまくり、大手ゼネコンから来る仕事は、単価面でとりわけ厳しく、あえいでいる中、逆に、同社の業績はすこぶる順調です。

事実、1990年当時の売上高はグループ全体で83億円でしたが、30年後の今日では、180億円に、ほぼ右肩上がりで増加しています。

社員数も30年前は350名程度でしたが、これまた右肩上がりに増加し、現在では650名にまで増員しています。今や地場の企業として最大の雇用貢献企業です。

ともあれ、公共工事は当時と比較し35%減という中で、同社が右肩上がりで、売上高・社員数とも増加したのは、上述した新規ビジネスである「住まいのお助け隊事業」が、顧客の評価を受け、現在では同社の約半分を占める売上高までに増加したからです。

その意味では、もしも、公共事業に固執し、新規事業である「住まいのお助け隊事業」に乗り出さなければ、今日の島根電工はなかったといっても過言ではありません。

その立役者は、現社長荒木恭司さんです。荒木さんは、当時常務でしたが、「公共事業の将来は先細りとなり、社員とその家族の命と生活は守れなくなる…」と、新たな事業として「住まいのお助け隊事業」を提案しました。

しかしながら、当時の大半の経営陣はもとより、社員の多くも「一工事が何千万円から数億円という受注工事が大半の中、一工事が数千円とか数万円という小口工事は馬鹿らしく、やって入れない」という考え方が支配的でした。

荒木さんは綿密な計画を立て、その部門の設置を認めてもらい最初は細々と、スタートしたのです。

スタートし1年半は、鳴かず飛ばずの状態でしたが、苦労と努力が実り、動きだしたのです。

荒木さんは、社長に就任後、なお一層「住まいのお助け事業」を重視し、戦略的に推進したこともあり、今や見事、公共事業と並ぶもう1本の柱にまで成長発展したのです。

「住まいのお助け隊事業」は、単に会社の業績向上に寄与しただけでなく、地域社会の評価を高め、今や、大学生や専門学校生、さらには高校生の、島根県を代表する人気企業となっています。

島根電工の脱公共事業の取り組みは公共事業に依存追随する企業のモデルです。

 
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筆者紹介

坂本光司

アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長  坂本 光司(さかもとこうじ)
1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。

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