フタバタクシー~福祉・介護で頑張るタクシー業者

経営

仙台駅から車で15分ほど走ったところに、フタバタクシーの本社事務所と配車センターがあります。

事務所前のタクシー待機場には、何台かの車が待機していますが、その様子は他のタクシー業者とは全く違います。

それは、特殊仕様のタクシーの多さです。及川孝社長さんに聞くと、所有する43台の車両のうち23台が普通のタクシーですが、残り20台は、福祉・介護用の専門タクシーといいます。40台規模の車両をタクシー会社で、保有車両のおよそ半数が、福祉・介護用という企業は見たことも聞いたこともありません。

より驚かされることは、福祉・介護のタクシーの種類です。車いす用のタクシーばかりか、ストレッチャーが入る寝台車用タクシー、さらにはベッドのまま、移動できる寝台用のタクシーまでもあります。さらに脅かされるのは、約50名いるタクシーのドライバーの大半は、ホームヘルパー二級の有資格者なのです。

一般タクシーも、この規模のタクシー業者は1車種か2車種の保有ですが、フタバタクシーはなんと4種類以上あるのです。

フタバタクシーが、効果・効率を重視した経営をしている企業ならば、福祉車両にしてもタクシーの種類の多さにしても、こんな非効率な経営はあり得ないと思います。

しかし、フタバタクシーは違います。効果・効率や企業の業績などではなく、人の命や生活をより重視し、自利ではなく利他の経営を行っているのです。

フタバタクシーは、今から60年前の1961年に創業しました。創業者は現社長の及川孝さんのお父さんです。まさに時代は高度経済成長の時期であり、一般のタクシー業としてスタートすることもできたました。しかしながら、現社長の父は、あえて当時からの社会的課題である患者移送専門のサービス業としてスタートしました。

それは「世の中には、たとえ儲からなくても、誰かがやらなければならない仕事がある…」という、考えがあったからです。創業当初の従業員数は、ドライバー兼務の先代と、パートの女性スタッフ1名でした。
大型の外国車にストレッチャーを固定した寝台車タクシーを使って、東北圏内を商圏に、患者さんの移送がメインでした。

忙しさの割には、企業の業績は常に不安定でした。サービスの社会的意義と見かねた現社長の及川さんが入社し、患者移送タクシー事業だけでは限界があると、その後、普通タクシーはもとより、介護タクシー・子育てタクシー・障がい者支援タクシー・救護タクシー、さらには買い物代行タクシー・お墓参り支援タクシー等、次から次に新規ビジネスを開発提案していきました。

こうした努力と苦労が実り、今やこの分野ではモデルといわれる企業に成長・発展したのです。

ちなみに、及川さんは、創業者の長男として生まれましたが、当初はタクシー会社を後継するつもりもなく、また父親からもそれを強く要請されませんでした。ですから、及川さんは地元の高校を卒業した後、東京の大学に進学し、卒業後は銀行に就職をしました。

及川さんは、定年まで勤めるつもりでいましたが、あえて銀行を辞め、お父さんの遺志を継ぎ、社会的課題の解決のために入社したのでした。

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筆者紹介

坂本光司

アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長  坂本 光司(さかもとこうじ)
1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。

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