有限会社御谷湯~地域に貢献する銭湯

経営

全国に銭湯と呼ばれる「一般公衆浴場」は、4,300ヶ所、都内でも630ヶ所存在する。かつては、全国に2万ヶ所以上、都内にも3,000ヶ所も存在していたが、近年では激減し、今やピークの4分の1である。

この間の銭湯の激減の最大の要因は3つある。第1は、今や90%をはるか超える自家風呂の普及である。第2は、この間、ヘルスセンターや健康ランド、スポーツ施設、サウナ風呂、さらにはスーパー銭湯等、他の公衆浴場の台頭・普及も大きい。事実、かつては、公衆浴場と言うと、ほぼ100%が銭湯であったが、今やその比率は18%程度まで低下している。

そして第3は、当業界の後継者不足である。事実、当業界の大半は個人企業であり、その従業員もほとんどが家族従業員を中心としている。資料によると、業界の事業主の年齢は、70歳以上が44%、60歳代が29%と、60歳以上の事業主が全体の73%も占める。

より驚くのは、その後継者で、「後継者がいない」銭湯が全体の60%程度もあり、このままでは、10年後にはさらに半減化しかねないのである。

では、業界に未来はないのか。そんなことはない。その1つの事例が墨田区にある「有限会社御谷湯(みこくゆ)」である。従業員は、家族・親戚の4名で、まさに業界の平均的な銭湯のように見えるが、業歴は古く、すでに70年の歳月を刻み、3代目となる後継者も既に決まっている。

こうしたこともあり、平成27年には100年企業を目指し、数億円の資金を投下し、5階建ての銭湯を新築している。多くの銭湯が衰退傾向の中、なぜ御谷湯は元気なのか、その要因は多々あるが、最大の要因は、当社の地域貢献・社会貢献の姿勢と実践と思われる。

その全てを紙面で紹介できないが、2年前新築した銭湯(両国駅と錦糸町駅の中間)に行けば、その訳が一目瞭然である。

4階と5階にあるメインの銭湯は、すべての施設がバリアフリーになっているばかりか、一番便利な1階は、車椅子の障がい者やお年寄りのための福祉風呂である。余談であるが、1ヶ月の利用客を聞くと、5名~10名程度であり、到底採算がとれる施設ではないが、障がい者やその家族の「素敵なお風呂に入りたい…」というニーズ・ウォンツに、あえて新設している。

より驚かされるのは、2階で、ここは地域の障がい者の就労移行支援施設に低利でフロアーを提供し、その活動を支援するとともに、その売り上げに貢献したいと、御谷湯の銭湯の清掃業務を依頼している。

こうした弱者に優しい経営姿勢が、地域住民に高く評価され、今やうわさを聞き付けた顧客が遠くは千葉県・埼玉県からもやってくるという。

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筆者紹介

坂本光司

アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長  坂本 光司(さかもとこうじ)
1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。

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