天彦産業~社員第一主義の中小企業

経営

大阪市の住之江区にある巨大な流通センターに一角に天彦産業という社名の企業がある。主事業は特殊鋼材の仕入れ販売や加工販売で、社員数は40名の中小企業である。

こうした業種に属する企業の大半は、正直、重厚長大的・3K的イメージが強く、男性社員が大半という職場であるが、同社の実態はそうしたイメージとは全く異なる。

事実、40名の社員のうち女性や員は10名、しかもほぼ全員が外国語に堪能なエリート社員であり、職場の雰囲気はアットホーム的で、いわゆるギスギス感は全くない。

こうした経営が関係機関から高く評価され「ダイバーシティ経営企業100選」をはじめ数々の賞を受賞している。そればかりか、昨年4月には、うわさを聞き付けた安部首相がわざわざ訪問し、女性が活躍するモデル企業であると絶賛している。

同社が関係者から高い評価を受けているのは、5代目社長である樋口友夫氏が掲げた「会社は家族」「社員第一主義経営」「3H(個人・家族・会社の3つのハッピネス)」が、全社員とその家族から高い支持を受けているからである。

こうした経営の原点は樋口社長の幼少の頃からの生活体験にある。同社は、取引先の倒産で、過去数回、連鎖倒産の危機に陥ったことがある。

しかしながら、同社はどんな苦難な時にも「家族同様である社員とその家族の命と生活を守るのが経営者の使命と責任」と、自らの生活費や報酬を大幅にカットするなどし、社員その家族を守り続けた父親や先代経営者である兄の背中を見ながら育ったからという。

同社が実施している社員第一主義経営の内容は多々あるが、その1つが「会社ではなく家族を優先せよ…」である。例えば、同社では社員の子供の入学式や卒業式、授業参観日等の学校行事があった場合も、家族が病気などの場合も、休みを強制的に取得させている。にもかかわらず、社員が出勤した場合、社員も上司も樋口社長からこんこんと注意される。

こうしたこともあり、同社の社員で、生涯にたった1回こっきりしかない、家族のメモリアルデイに、「会社の仕事が忙しいから…、会社の方が大切だから…」という理由で、出社する社員は1人もいないし、同僚も認めない。

先般訪問した折、こうした経営が、社員の心をしかと捉えているという感動のエピソードを伺った。リーマンショックの折、同社の売り上げは半減化し赤字経営を余儀なくされた。それでも樋口社長は「社員もそれを充てに生活をしているだろうから…」と、「通常の半額以下であるが、ボーナスを支給する…」と、朝礼で全社員に話した。

すると、朝礼が終了するや、多数の社員が社長室に押し掛け「こんな時にボーナスを出したら会社が倒産してしまうではないか…、出すべきではない…、私たちは要りません…」と言ったという。

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筆者紹介

坂本光司

アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長  坂本 光司(さかもとこうじ)
1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。

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