めがねのヨシダ~127年連続黒字経営商店に学ぶ

経営

北九州市の門司駅から徒歩で3分ほど行った駅前商店街の一角に「めがねのヨシダ」という名の小売商店がある。4階建ての商店で、1階と2階が店舗、3階が事務所、そして4階が自宅になっている。

近年多くの小売商店は、様々な理由があるとはいえ、自宅とお店が別にあり、その結果として、本来、地域の小売商店が行うべき「地域密着の経営・地域住民とともに歩む経営」がやれなくなっているが、当店は創業以来、シカとこのことを守り続けている。

創業は明治18年、創業歴は既に127年、現在の吉田社長は4代目、社員数は24名である。より驚かされるのはその業績で、創業以来127年間黒字経営を持続している点である。

当社の安定した長寿経営の秘訣は多々あるが、ここでは3点に絞り紹介する。

第1点は、この間、先祖が残した「家訓」を守り続けている点である。その家訓とは「景気や流行を決して追わず、地域住民のためになる経営をすること」である。このため当店はこれまで他地域や郊外のショッピングセンター等から様々な出店要請があったが、その全てを断り、門司地区に2店舗のお店で地域密着経営を続けている。

第2点は、積極的な地域貢献活動である。当店は地域の小学校の子供たちの社会見学・就業体験を積極的に受け入れているほか、門司地区の様々な組織に呼びかけ「門司を美しくする会」を設立し、地域の清掃活動に先頭に立って取り組んでいる。ちなみに全国いたるところで見られる壁の落書きは、門司地区では全く見当たらない。

こうした自店の繁盛ではなく、街のため、子供のため…といった経営姿勢は、多くの地域住民の信頼を高め、広告宣伝活動はほとんどしないにもかかわらず、今や門司地区の10万人のメガネ販売(金額ベース)シェアはなんと50%という。

第3点は、ES経営の徹底である。店舗の長期にわたる繁栄は、いくらトップがしゃかりきになっても実現できるものではない。全社員が一心同体となり、良い商店づくりに邁進しているからである。もとよりこれは、全社員が安心して一生懸命働ける環境を用意しているからである。

その1つをいうと、当店では定年が無いばかりか、正社員になるか非正規社員になるかも、会社の都合ではなく、本人の都合を優先させている。ちなみに、現在の社員で非正規社員は1名のみである。

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筆者紹介

坂本光司

アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長  坂本 光司(さかもとこうじ)
1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。

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