職人が中にいるかのような機械 -吉泉産業株式会社

経営

西浦道明のメルマガ 2023年9月

2014年から、当メルマガでは自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。

連載109回目の今回は、大阪府枚方市で、食品加工機械の製造および販売を行う吉泉産業株式会社(以下、Y社)の池クジラぶりを見ていきたい。

Y社の創業は、1955年。
現社長佐々木啓益氏(以下、S氏)の父が大阪府守口市において創業した。

先代は、元々職人として、様々な金属製品を硬く仕上げる熱処理加工を専業としていた。

しかし、熱処理加工は下請け仕事のため、メーカーとしての主体性を打ち出しにくかった。

そこで、自社の強みである、刃物に熱処理を施し、切れ味が良く独創性の高い刃物を作り出す技術を中核に、食品加工機械という市場に進出することを考えた。

Y社は、刃物以外も大半の部品を自社製としたため、技術力と性能面で他社と明確な差別化を図ることに成功した。

さらには、内製することで、お客様の要望に制約を設けず応えることができるようになり、他社では難しい依頼にも対応することができるため、高付加価値化にもつながった。

野菜や魚のスライスに特化した食品加工機械の開発に取り組んでいった。

食品加工機械は品種が多いため、量産のニーズが少なく、小規模でも対応可能と考えたからだった。

あるとき、先代の元に、うどんチェーン店から、ネギを入れれば即座に小口切りになる機械、すなわち、自動ねぎ切り機を作ってほしいという依頼がきた。

そこで、丸刃型の万能スライサーを開発したところ、これが、ヒット商品となった。

その後も努力を重ね、Y社は、スーパーのセントラルキッチンや大手コンビニベンダーなどで使われる、野菜用高速スライサーは、切り口の見た目の美しさ、鮮度が良い等、食材の切れ味が高く評価され、大手コンビニベンダーの推奨機の指定を受けるまでに至った。

またY社は、欧州で誕生し、米国で急速に成長したカット野菜が現れるや、カット野菜の加工分野におけるスライサー単体の提供に留まらず、その前後を構成する機器・ラインを開発した。

すなわち、洗浄・脱水工程における省スペース・省力化というカット野菜の製造現場ニーズをいち早く汲み取り、洗浄機能と脱水機能を一体化し、しかも、除菌性能を中間脱水工程に新たに設けることにより、従来と比べると飛躍的に食品加工プロセスの改善を図り、業界初の全自動野菜洗浄脱水機を開発した。

さらにY社は、お客様の立場に立って、徹底的に要望を分析、把握することにもこだわっている。

例えば、お客様から「鮭の切り身をきれいに切る機械を作ってくれませんか?」という依頼が入ったとする。

S氏は、この要望に応えることは実は奥が深いと言う。
そこには様々な要望が込められている。

Y社では、お客様の声を徹底的に聴き、お客様の要望通りの製品を完成させるまで、何度も試作を繰り返して、微妙な刃の角度、製品の形状やサイズなど完璧に仕上げるまで続けている。

その結果、まるで魚屋さんの職人が機械の中にいるかのような断面積計算がされた、重さ均一の切り身が1時間当たり2,800枚の速さで、しかも、きれいに切れる機械を作り上げた。

Y社は、スーパーのセントラルキッチンやコンビニのベンダーなどで、カット野菜をスライスするのみならず、洗浄・脱水工程まで含めた、カット野菜加工機械市場(池)のクジラとなっている。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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