バイヤーがいないスーパーセンター -株式会社マキオ

経営

西浦道明のメルマガ 2020年7月

2014年から、当メルマガでは自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。

連載71回目の今回は、鹿児島県阿久根市で、生鮮食料品から自動車までを取り扱うスーパーセンター、株式会社マキオ(以下、M社)の池クジラぶりを見ていきたい。

M社は、1985年、現社長の牧尾英二氏(以下、M氏)が、実弟が経営していた小売業を立て直すため、自動車メーカーを辞めて地元に戻り、設立したのが始まりである。

1985年、日本で初めて、小商圏(人口3万人以下)で、24時間年中無休の、大型店舗(売場面積3,500坪)の開設を国に申請したが、「商圏に30万人以上が必要」と言われ行政の許可が下りず、11年後の97年に漸く、「A-Zあくね」を開店できた。

続いて2005年「A−Zかわなべ」、2009年「A−Zはやと」をそれぞれ開店、現在では年間650万人が訪れるスーパーセンターにまで成長した。

M氏は、「実弟の店の立て直しのため故郷に戻る」という人生の一大方向転換を強いられたがこれを「天命」と捉えた。

好きでもない小売業に全身全霊を打ち込むため、小売業を「天職」と自らに納得させたのだ。

この経緯が、M社のビジネスモデルを決定づけている。

すなわち、徹底した「利他の心」が理念にある。

過疎化と高齢化が進むこの田舎町で「不便な生活を強いられている人々が便利さを享受できるような店を創りたい」と考え、販売効率より「お客様の便利さ」に焦点を合わせることにしたのだ。

「気軽に足を運んでいただき、ワンストップで買い物ができる巨大な生活総合店」が基本コンセプトである。

こうした経緯から、M社は、開店当時の人口27,000人という小商圏で、年中無休・24時間営業、売場面積3,500坪の大型店舗を開設するという業界の非常識を実行に移した。

お客様には、限りある時間を有効に使い、買い物には空き時間を充てていただきたいという思いから24時間営業に取り組んだ。

共働き夫婦、深夜まで営業している飲食店、早朝の工事現場勤務者などの人々に便利さを提供。

夜9時から翌朝7時までの売上が全売上の3割を占めている。

さらに、国内最多と言われる38万アイテム以上の品揃えも、「お客様ニーズ第一」という基本コンセプトからである。

これは、M社が展開するスーパーセンターの店名「A-Z」にも表れている。

つまり、生活必需品は「AからZまで」揃えるということで、実際、車、仏壇、牛の鼻輪など、ありとあらゆるものが手に入る。

中には、年に1つしか売れないものもある。

M社は、社内にバイヤーを置かず、商品のPOS管理も行わず、マニュアルも売上目標・事業計画も作成しない。

ただ、売場責任者がお客様の要望に応え続け、それぞれの権限で商品を入荷する分権型の組織である。

例えば、自動車販売もお客様の声から始まった。

車の販売を始めたことで、給油、車検のニーズが生まれ、A-Z内で完結するように事業が拡充されていった。

M社は、業界常識に囚われず、販売効率を優先させず、お客様のニーズに応える商品アイテムを提供し続けることで高い評価を得てきた。

M社は、過疎化と高齢化が進む田舎町ならではの、24時間営業のスーパーセンターという市場(池)のクジラとなった。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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