工芸の工業化 -株式会社マルニ木工

経営

西浦道明のメルマガ 2020年2月

2014年から、当メルマガでは自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介しています。

連載66回目の今回は、広島県広島市佐伯区で、木製家具の製造・販売を行なう株式会社マルニ木工(以下、M社)の池クジラぶりを見ていきます。

M社は1928年、創業者山中武夫氏が、加工によって自在に形を変える木の不思議さに魅了されて創業し、木材の曲げ技術を確立しました。

それまで手工業の域を出なかった日本の家具工業でありましたが、分業による家具の工業生産により、「工芸の工業化」をモットーに家具づくりを進めてきました。

現社長の山中武氏は、国内はもちろん、ヨーロッパ、北米、オーストラリアなど世界30ヶ国へ輸出し、世界に多くのファンを持つ「maruni」ブランドを確立しました。

M社の代表的商品である「HIROSHIMA」という椅子は、米カリフォルニア州にあるアップル本社にも数千脚納入されています。

M社がここまで成功できた理由の一つは、創業者の「工芸の工業化」というこだわりを徹底的に追求してきたことにありました。

工業化と言っても、長年伝統工芸として受け継がれてきた、日本の木工職人が持つ匠の技、一品ごと手作りすることからくる工芸美を失わないよう、全部を機械任せにはせず、バランスよく、人の手も入れながら量産化することに挑戦しました。

そのため機械の自社開発、匠の技を数値化するプログラミング技術、分業による生産技術など、様々な技術開発に取り組んできました。

その結果、すべて手作りだと100万円くらいになってしまう椅子も、工業化によって10万円台で作ることができるようになっています。

またM社は、外部の著名なプロダクトデザイナーをアートデザイナーとして迎え入れ、世界に誇る日本発の家具ブランドとして確立することを目的に、「MARUNI COLLECTION」を立ち上げました。

これにより、M社は木工メーカーに徹し、デザイナーと協働することで、従来の家具業界では考えすらしなかった「世界の定番」を目指しました。

国際的なデザイン感覚、日本独自の木に対する美意識、そして精緻な木工技術の三つが融合した造形美は、「名作」を生み出し、世界から注目を集めることになりました。

代表的商品である「HIROSHIMA」は、著名なプロダクトデザイナー深澤直人氏とのタッグによって生まれた、氏の「生涯の名作」でもあります。

ただ、デザイナーと連携すると言っても、M社は外部デザイナーの出すアイデアを丸ごと受け入れ、それを形にすることはしません。

構造上の無理が生まれ、椅子としての機能を果たせなくなる可能性があるからです。

M社は、最高のモノづくりのために、妥協することなく、座り心地、強度、デザイン性、そして手の届く価格という4つをバランスさせています。

M社は、精緻な木工技術により、国際的に著名なデザイナーと一緒になって名作を量産し、手の届く価格で提供し、国内外から高い評価を得てきました。

M社は、切削加工の木工家具名作市場(池)を築き、そのクジラとなっています。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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