つくり過ぎず、品切れさせない仕組み -ダイニチ工業株式会社

経営

西浦道明のメルマガ 2019年8月

2014年から、当メルマガでは自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。

連載60回目の今回は、新潟県新潟市南区で家庭用石油ファンヒーター等の製造・販売を行う、ダイニチ工業株式会社(以下、D社)の池クジラぶりを見ていきたい。

D社は、1964年にD社創業者の佐々木文雄氏が、新潟県三条市で設立したのが始まりだ。

2018年には、家庭用石油ファンヒーター市場で、累計生産台数3,000万台を達成した。

また販売台数シェアでは11年連続業界トップ、市場シェア50%以上と、圧倒的な地位を確立している。

D社が家庭用ファンヒーター市場に参入したのは1980年。既に三菱や日立など大手電機メーカーが手掛けていた。

D社は後発ではあったが、それまでに製造されていた製品の問題点を解決し、「着火が早い」「ニオイが少ない」と高く評価された。

しかし1990年代に入るとエアコンが普及。

石油ファンヒーターは時代遅れと見られるようになり、D社は急速に業績を悪化させ、1998年には創業初年度以来の赤字に転落した。

そんな時期に社長に就任し、厳しいかじ取りを託されたのが現社長の吉井久夫氏(以下、Y氏)である。

ちなみに、2000年代に入ると、業界各社は次々と撤退し、かつて13社あった石油ファンヒーター・メーカーは、今では4社に集約されている。

Y氏は、うず高く積み上げられた40万台以上の在庫の山に驚いた。

つくった半分も売れていなかったからだ。

在庫処分を決断し、15,000円ほどから10,000円に値を下げて販売することにしたところ、在庫をすべて売り切ることができた。

これにより、Y氏は、石油ファンヒーターが時代遅れになったのではなく、10,000円なら買ってくれる人はまだまだいることに気づいた。

そこで、衰退産業の中で、R&Dに全社員の2割を投入し、次々と差別化された新製品を市場に投入することにより、お客様の心をしっかりと捉えることとし、あえて増産に踏み切ったのだ。

創業の理念に立ち返り、掲げたのは、(1) シェアトップを目指し生産台数を100万台に拡大し、コストも品質も断トツを目指す、(2) 代理店を通さず販売店への直販にシフトする の2点だった。

そこで改革に向け「販売の見える化」を図った。

3月から8月までに営業担当者から情報を得、いかに精度の高い販売計画を作るかに挑戦した。

計画変更を恐れる営業担当者に計画変更を奨励して勇気付け、正社員による通年生産に切替え「平準化生産」に取り組んだ。

生産計画の7~8割の売れ筋製品は、シーズン前の夏までに生産し、在庫に積み上げておくことにした。

また、繁忙期の10月から12月に関しては、倉庫の在庫が足りないときでも、注文を受けてからわずか4時間で製品を生産し出荷できる「ハイドーゾ(はいどうぞ)生産方式」という仕組みを考案した。

これにより、生産計画の残り2~3割は、市場の動向を注視しながら製造することが可能になった。

売れる機種や売れない色など、臨機応変に組み替えることにしたのだ。

ちなみに、こうした通年生産への切り替えは、単にD社だけのためではなく、D社を主要取引先としている協力会社にも年間で安定して仕事を供給したいという思いからでもあった。

D社は独自の技術と生産方式で、顧客は勿論、販売店や協力会社からも高い評価を得ている。

D社は、つくり過ぎず、品切れさせない仕組みを構築して、家庭用石油ファンヒーターといえばダイニチ工業という市場(池)を築き、その大きなクジラとなった。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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