眠りにこだわった宿泊特化型ホテル -株式会社スーパーホテル

経営

西浦道明のメルマガ 2019年7月

2014年から、当メルマガでは自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。

連載59回目の今回は、大阪市に本社を置き、国内主要都市は勿論、海外にもホテルチェーンを展開する株式会社スーパーホテル(以下、S社)の池クジラぶりを見ていきたい。

S社は、1989年12月20日に、創業者で現会長の山本梁介氏(以下、Y氏)が設立したのが始まりだ。

Y氏は大学卒業後、25歳の時に家業の繊維業を引き継いだが、単身者向け賃貸マンション経営に事業転換し、若者向けシングルマンションに特化した。

入居者からは毎日多くの苦情が寄せられた。

それらを整理すると、「階段を昇降する音がうるさい」「隣や上の部屋から漏れてくる声が気になる」など、睡眠妨害に対する不満が多かった。

これらの課題に誠実に取り組んだところ、高収益を上げるようになり、関西を中心に、最盛期には6,000室ほど展開するまでになった。

この経験が、その後のホテル事業のビジネスモデル構築に大いに役立ったのだ。

Y氏がホテル業を調査したところ、ホテルは宿泊して眠る施設であるにもかかわらず、意外にも眠りにこだわったホテルが存在していなかった。

ホテルのヘビーユーザーであるビジネスパーソンに一番大切なのは翌日の商談に成功すること。

それにはぐっすり眠れることが最重要と考えた。

彼らの滞在時間は夜22:00から翌朝08:00までの10時間ほど。
その7~8時間はベッド及びその周辺で過ごす。

Y氏はビジネスパーソンに客層を絞り、この時間帯のあり方にこだわった。

ビジネスパーソンに最も必要なものを「安全、清潔、ぐっすり眠れる」の3点だと考えて、「眠り」を、ほかのホテルの追随を許さない独自の強みにまで高めると決めた。

まず、大阪府立大学名誉教授清水教永氏との共同研究で睡眠の研究所を立ち上げ、パジャマやスリッパの共同開発を行った。

また、室音や照明などの標準を決めて設計・施工を進めた。

特に音については、廊下に面する部屋のドアの周りにゴムパッキンを貼り防音効果を高めた。

また窓も二重サッシにし、外からの音も遮音した。

これにより、客室には40デシベル以上の音は入らず、図書館レベルの静かさになった。

また、枕にもこだわった。

枕が原因で眠れないというクレームも多かったため、様々な枕の開発を試みたが、最終的には、フロント脇に様々な種類の枕を取り揃え、宿泊客には、自分に適した枕を選んでもらうことにした。

その結果、枕のクレームはほぼゼロになった。

また、ベットも通常よりも幅の広いオリジナルベットを使うこととした。

さらに、照明もロビーから廊下そして部屋へと移動していく際に段々明るさを落とし、自然と眠りにつきやすい設定にしている。

眠り以外では、無駄を徹底削減した。

具体的には、部屋に電話を置かない、冷蔵庫に飲み物を入れないなど、100人中1人しか困らないサービスは切り捨て、清算精算の手間を省いた。

さらに、チェックインの自動化に取り組んだ。

その結果、フロント要員が減り、人件費をセーブできた。

お客様も、朝ギリギリまで眠れ、チェックアウト時、フロントに立ち寄る必要がなくなった。

S社は、省けるものは徹底的に省いてとことん眠りにこだわり、宿泊客に安眠を提供し続けることで、多くのお客様から高い評価を得ることに成功した。

S社は、眠りにこだわった宿泊特化型ホテルという市場(池)を築き、その巨大なクジラとなっている。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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