無添加石けん専業を貫く -シャボン玉石けん株式会社

経営

西浦道明のメルマガ 2019年4月

2014年から、当メルマガでは自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。

連載56回目の今回は、福岡県北九州市若松区で無添加石けんの製造販売と消火剤の開発を行うシャボン玉石けん株式会社(以下、S社)の池クジラぶりを見ていきたい。

S社は、1910年創業。

2代目の森田光徳氏(以下、M氏)は、合成洗剤を製造していたが、個人的に原因不明の湿疹に長年悩まされていた。

1971年、国鉄(現JR)から「合成洗剤で機関車を洗うと車体がサビる」と無添加の粉石けんの開発・製造を依頼された。

試行錯誤の末、無添加石けんを作りあげ、自分自身でも使ってみたところ、湿疹が快癒した。

M氏は、「身体に悪いと分かった以上その商品を売るわけにはいかない」とそれまでの合成洗剤を止め、1974年、無添加石けん製造販売のパイオニアとなった。

しかし、当時はまだまだ無添加石けんに対する需要は少なく、それまで月に8,000万円あった売上は78万円に激減し、100名近くいた社員も一時は5名にまで減少した。

不安を感じた社員は口々に「無添加石けんの需要はない。

合成洗剤に戻しましょう」と訴えた。

それでも、M氏は「自分が怖くて使えない洗剤は売れない」と、苦境の中でも「健康な体ときれいな水を守る」という経営理念を曲げず、無添加石けん専業を貫き通した。

1974年から1991年まで17年間も赤字続きだったS社が、なぜ、事業に成功できたのだろうか。

一つは、損得よりも善悪を基準とし、湾岸戦争直後の「環境を守らねば」という時流に乗るまで諦めなかったことが挙げられる。

黒字転換できた前年の1991年、M氏が執筆した

『自然流「せっけん」読本』の出版部数は10万部を超えるベストセラーとなった。

ちなみに、現在、「無添加」と謳っている商品が世の中に数多く出回っているが、添加物が何か1つでも入っていなければ無添加と謳うことができる。

例えば、着色料が入っていないだけで「無添加」とパッケージに大きく書くことができるのだ。

シャボン玉石けんの「無添加」とは、成分は石けん成分のみのものだ。

二つ目として、効率性を追求せず、質の良い石けんを作るため、伝統的な製造方法にこだわった。

一般には「中和法」といわれる、4~5時間で大量生産できる石けん製造方法を用いる。

S社は、添加物を入れない質の良い石けんをつくるため、熟練職人が1週間から10日間かけてじっくり丁寧に作る釜炊き製法「ケン化法」を採った。

三つ目は、ファンづくりという営業スタイルがお客様の心を捉えた。

S社の営業パーソンは、販売するというより伝道師の役割を担っている。

価格に訴求せず、商品の良さに共感していただき、お知り合いを紹介していただける関係構築に徹している。

また、売上の40%強を占める通販においてもオペレータは正社員であり、伝道師の役割を担っている。

S社は、苦境の中でも信念を曲げず、手間を惜しまず、無添加石けん専業を貫き続け、身体にも自然にもやさしい商品を作り続けることで、多くのお客様から高い評価を得ることに成功した。

S社は、「無添加石けん」という市場(池)を築き、そのクジラとなっている。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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